茄子の生命力は強く、秋風が吹いても木は成長し、まだまだ花をつけている。ただし、実の成長は気温に大いに左右される。一時気温が下がったときは、ほとんど実が大きくならず、今年はもう終わりかと思ったが、ここ4、5日の夏日で、びっくりするほどの収穫があった。皮の肌理が細かくなり、食感もぱりぱりして美味しい。
秋茄子をうましと噛みぬ老いたりや 中山一庭人
辰巳浜子が『料理歳時記』のなかで、秋ナスの丸揚げについて書いている。ヘタをつけたまま丸洗いしたナスを、ふきん水気を取り、竹串で茄子の表面にぶすぶすと穴をあけ、熱い油にくぐらせる。これは、ナスの皮が破裂して、油が飛び散るのを防ぐためだ。ナスは揚がると餅みたいにぷーっとふくれあがり、油から出すとしゅうーっと萎む。揚げたてのあつあつをおろし生姜としょうゆで食する。辰巳浜子の料理法は読んだだけで、おいしさが伝わってくる。
安保法案が参院の特別委員会で強行採決された日、辰巳浜子の娘で料理研究家の辰巳芳子が朝日新聞のインタビューに答える記事が載った。題して、「台所から考えるいのち」。「私は大豆100粒運動というキャンぺーを始めました。1人100粒をまき、育て、収穫する。増産のためじゃない。大豆なら将来の日本を助けてくれるから。運動10年、小学生3万人が大豆に親しんでくれた。国の立て直しには、こういう具体的で無私無欲の農業施策が欠かせません」国を、日本人を本当に守る一番の基本は、食べるものを国の中できちんと収穫できる農業のあり方を先ず、確立することから始めなければならない。