台風が太平洋を北上し、三陸沖に達した。さっきまでの雨がうそのように止み、南の空に青空が見えてきた。日が射しはじめると、気温が上昇する。ただ名残りの風が吹き付けている。台風はいわば空中にできる大きな渦巻きである。空気は台風の中心に向かって渦をまきながら吹きこんでいく。渦のまきかたは左巻き、時計と反対の方向に回転する。英語で言えば、カウンタークロックワイズ。
戦後、アメリカ軍が日本に駐留していたころ、台風の名はキティ台風、キャスリーン台風など女性の名がつけられていた。これはアメリカ軍の気象隊の伝統であった。なぜ女性の名をつけるのか不思議だが、英語の諺に「女心は冬の風、変わり方がめまぐるしい」というのがあり、そのあたりが女性名をつける動機になったらしい。の本の気象庁もこの伝統に同調して、アリス、ペティ、コラなどの名を番号と併用して名付けたこともあった。その後、アメリカのウーマンリブの抗議で、アメリカでは女性名と男性名が交互に付けられるようになった。二つの台風が並んで発生するとアベック台風と呼ばれるが、名前の付け方が変わってためにこう呼ばれる。
野分やむで人声生きぬここかしこ 原 石鼎
台風は英語のタイフーンをふまえてできた語だが、この語ができるまでは野分と呼ばれていた。台風は左の渦巻きであるため、北にある高気圧を呼びこむことがある。山里にススキが咲き、コウロギ鳴きはじめる。菊の花も咲きはじめた。