
ぐずついた季節の変わり目の雨のあとに、こんなに気持ちよい秋晴れが来ようとは。目を西に転ずれば、うすっらと満月を過ぎた月が山の端におちていく。すこしばかり靄っているが、朝日が地上のすべてものにあまねくふりそそぐ。今日は冬タイヤへの履き替えを予約している。午前中はデーラーまでタイヤを運んで、冬の到来への準備。散歩コースの公園では楓の紅葉がまた少し深まった。時雨に逢えば山の紅葉も一夜にして散り果てる。
和泉式部が敦道親王に紅葉見物に誘われた話が『和泉式部日記』に出てくる。当時は、物忌という風習があって、誘われてもすぐに出かけられないという事情があった。その夜、山は時雨に降られてさしも紅葉が一夜にしって散ったしまった。その時の嘆きを歌に託した贈答歌がある。
もみじ葉は夜半の時雨にあらじかし昨日山べを見たらましかば 式部
(紅葉は、夜半の時雨で残ってはいまい。昨日のうちに山に行って見て
おけばよかったものを)
そよやそよなどて山べを見ざりけむ今朝は悔ゆれど何のかひなし 宮
(そうだ。どうして山の紅葉をみなかったのか。今朝あなたが悔やんだ
ところで何の役にも立たない)
昨今の寒気と降り続く、時雨のような雨は、二人の嘆きを今に呼びおこすような気がする。山の紅葉が終わったなら、里の紅葉名所をこの秋はじっくりと訪ねることにしよう。春の花、秋の紅葉。残された人生であと何度楽しむことがききるか。先のことは数えることはできない。
