昨日まで強風と雨にさらされていた庄内。こんな天気に恵まれることは予想していなかった。長く続けていた登山で、最後にもう一度見ておきたい景観がある。月山、湯殿山、鳥海山の雪景色に加え、庄内平野に横たわる摩耶山地とその左側の朝日連峰。この時期の品倉山(1211m)は、重畳と重なる山々の雪景色のパノラマ。この時期のさえぎるもののない景観こそ、最後の見て、脳裏に焼きつけておきたいものである。条件としては晴天、風のない穏やかな日。昨日まで不安定だった天候が、今日になって晴れマークとなった。こんな偶然はめってにあるもではない。
朝8時、湯殿山スキー場に着く。駐車場には一台の車も停車していない。リフトのスピーカーから音楽が流れている。営業開始前かと思ったが、乗車券売り場に、3月から水曜日はゲレンデ手入れのため休業とある。リフトを降りてからゲレンデを通らずに登るつもりであったが、休業ではここも歩いて登るほかはない。ヤマップの活動日記を見ると、大抵のパーティーがこのスキー場を起点として登っている。頂上まで4㌔、ゲレンデの上は林のなかの平坦地を長く歩く。一台のスノウモビルが追い越して行った。ボードを携えた2人組が、品倉山を目指すらしい。おかげでこのトレースを使って歩く。朝の冷え込みで、ゲレンデは固くアイゼン使用。本日の参加者10名。
歩きだして30分、春の陽ざしに汗が出る。冬支度の厚着を脱いで、風通しのよいスタイルに替える。標高900m辺りから急登が始まる。先頭はsさんとⅿさん、雪大好き二人組。快適な足運びのお二人のラッセル引かれるようにして高度を上げていく。一歩上がるごとに、スキー場の前の付近の山々やその向うの摩耶山地の景観が広がりを見せていく。900mからは標高差で300mほどだが、目の前の雪がさえぎって、思わぬ時間がかかる。足の筋肉を思い切り使いながら登っているが、4年前ここで見た風景が頭をよぎる。朝方晴れていた空に薄い雲が広がってきた。4年前、太陽はもっと降りそそいで雪は輝いていた。
1000m付近に来て、木々に霧氷がついていた。一行のなかには、ここへ初めて登る人が半数以上だ。先週の白太郎山に続いて、私が登れる本格的な雪山だが、もうこれ以降は雪解けが進んでシーズン最後の雪山である。串田孫一のエッセイが思い出される。「山麓の雪のとけ方を見ていると、春と冬との間にかっきりと引かれた一つの線の上で、なごやかに一つの力が他の力にその場所をゆずって行く様子さえ見える。」こうして季節は移ろっていく。こんなことを考えながら、雪の上にアイゼンを乗せ続ける。スキー場を出て4時間、頂上に着く。初めて見る光景に目を輝かせている面々。頂上では風も穏やかで、撮影や展望を楽しむには十分であった。鳥海山の姿が見えたが、たなびく雲が展望を失なわせせている。陽のあたる林まで下山して昼食となった。