朝まだきかすみも八重(やへ)の潮かぜに由良(ゆら)の門(と)わたる春の舟びと(続後拾遺和歌集)
春の日のうららにさしてゆく舟は棹(さを)のしづくも花ぞ散りける(源氏物語)
田子の浦にかすみのふかく見ゆるかな藻塩のけぶり立ちやそふらむ(拾遺和歌集)
潮風の音(おと)もたかしの浜松にかすみてかかる春の夕浪(続拾遺和歌集)
浦とほき難波の春の夕なぎに入り日かすめる淡路島山(続拾遺和歌集)
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浜木綿(はまゆふ)
春霞いくへかさねて隔つらむえぞみくま野の浦のはまゆふ(長方集)
み熊野の浦のはまゆふ見えぬまでいくへ霞のたちへだつらむ(夫木抄)
み熊野の浦の浜木綿(はまゆふ)いくへかも我をば人の思ひへだつる(古今和歌六帖)
いたづ らに年(とし)ぞかさなるみ熊野の浦の浜木綿われならなくに(新撰和歌六帖)
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桜貝(さくらがひ)
春はさぞ花おもしろくさくらゐの浜にぞひろふおなじ名の貝(廻国雑記)
波よする霞の浦に散る花をさくら貝とや人は見るらむ(為忠家後度百首)
春風のふけひの浦に散る花をさくらがひとてひろふ今日かな(夫木抄)
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鯛(たひ)
桜鯛(さくらだひ)花の名なれば青柳の糸をたれてや人の釣りけむ(夫木抄)
かすみしく波の初花をりかけてさくら鯛釣る沖のあま舟(山家集)
のどかなる春のひがたのうら波に鯛釣る小船(をぶね)けふもいづ らし(夫木抄)
ゆく春のさかひの浦の桜鯛あかぬかたみに今日や引くらむ(夫木抄)