戀ごころ 薄田泣菫
草にならばや、
葵のくさに、
卯月なかばの酉の日や、
加茂の御生(みあれ)の片かづ ら、
君の御髪(みぐし)にかざされて、
一日(ひとひ)を榮(はえ)に枯れたさに、
草にならばや、
あふひの草に。
花にならばや、
菫の花に、
垣ね芝生のあさじめり、
息ざし深き濃むらさき、
きみがあゆみの蹠(あなうら)に
やをら踏まれて死にたさに、
花にならばや、
菫の花に。
(中略)
玉にならばや、
真珠の玉に、
煌(きら)の身きみが紅さしの
指にかがやく許されか、
さては遠海(とほみ)のみなぞこに
わが世沈みて朽ちたさに、
玉にならばや、
眞珠の玉に。
たのむ願ひは、
後世(のちよ)の誓ひ、
わが身七度(ななたび)うまれえて、
七度わが世撰(え)らるとも、
えやは戀らめ、戀ごころ、
君に捧げてありたさに、
たのむ願ひは、
後世のちかひ。
後の逢瀬は、
さもあらばあれ、
相見がたかる現し世に
男をみなの人となり、
かたみに深く慕ひよる
今のえにしを思ひては、
後の逢瀬は、
さもあらばあれ。
(「薄田泣菫全集 第2巻」より)
「△△にならばや」の連をいくつか取って、声楽曲にして歌いたい……、などと思いました。