monoろぐ

古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

薄田泣菫「戀ごころ」

2010年03月22日 | 読書日記

戀ごころ 薄田泣菫

  草にならばや、
   葵のくさに、
卯月なかばの酉の日や、
加茂の御生(みあれ)の片かづ ら、
君の御髪(みぐし)にかざされて、
一日(ひとひ)を榮(はえ)に枯れたさに、
  草にならばや、
   あふひの草に。

  花にならばや、
   菫の花に、
垣ね芝生のあさじめり、
息ざし深き濃むらさき、
きみがあゆみの蹠(あなうら)に
やをら踏まれて死にたさに、
  花にならばや、
   菫の花に。

(中略)

  玉にならばや、
   真珠の玉に、
煌(きら)の身きみが紅さしの
指にかがやく許されか、
さては遠海(とほみ)のみなぞこに
わが世沈みて朽ちたさに、
  玉にならばや、
   眞珠の玉に。

  たのむ願ひは、
   後世(のちよ)の誓ひ、
わが身七度(ななたび)うまれえて、
七度わが世撰(え)らるとも、
えやは戀らめ、戀ごころ、
君に捧げてありたさに、
  たのむ願ひは、
   後世のちかひ。

  後の逢瀬は、
   さもあらばあれ、
相見がたかる現し世に
男をみなの人となり、
かたみに深く慕ひよる
今のえにしを思ひては、
  後の逢瀬は、
   さもあらばあれ。
              (「薄田泣菫全集 第2巻」より)

 「△△にならばや」の連をいくつか取って、声楽曲にして歌いたい……、などと思いました。


薄田泣菫「戀のわな」

2010年03月22日 | 読書日記

戀のわな 薄田泣菫

あけぼの破るる光にながれ、
    然(さ)りやな
   君にまとひて、
 面照(おもでり)はなにほてるまで、
    さりやな
   戀のたはむれ、
    さりやな。

日なか小百合の萼(うてな)にかくれ、
    さりやな、
   君に折られて、
 息のかをりに咽(むせ)ぶまで、
    さりやな、
   さても口づ け、
    さりやな。

夜ぶか夜殿の夢路にひそみ、
    さりやな、
   をぐな姿や、
 君と花野のめぐりあひ、
    さりやな、
   胸もゆららに、
    さりやな。

はては黄泉門(よみど)の眞闇(まやみ)にしのび
    さりやな、
   君を待ちえて、
 諸手やはらにかき擁(いだ)き、
    さりやな、
   ながき眠りに、
    さりやな。

             (「薄田泣菫全集 第2巻」より)

 マンガを読んでたら、薄田泣菫の「戀のわな」という詩の一部が載っていて、全体を知りたくて、本を借りました。
 特に最後の一連がホントに耽美で、うっとりします。


すみれ/菫

2010年03月22日 | 日本古典文学-和歌-春

春の野のつばなが下(した)のつぼすみれ標(しめ)さすほどになりにけるかな(堀河百首)

道とほみ入野(いるの)の原のつぼすみれ春のかたみに摘みてかへらむ(千載和歌集)

むらさきの濃染(こぞめ)の袖とまがふまですみれ摘みもてかへる里びと(現存和歌六帖)

春雨のふる野のみちのつぼすみれ摘みてもゆかむ袖はぬるとも(拾遺愚草)

すみれ草つみつつかへる春日野にたがためとなく袖ぬらしけり(後大通院殿御詠)

春くれば田居(たゐ)にまづ 咲くつぼすみれ見れども飽かぬ君にもあるかな(古今和歌六帖)


つばな/茅花

2010年03月22日 | 日本古典文学-和歌-春

春雨のふる野の茅原(ちはら)けふ見ればつばなぬくべくなりぞしにける(新撰和歌六帖)

玉ほこのみちの芝くさ穂にいでて春のつばなも人まねくなり(新撰和歌六帖)

知る知らぬことあり顔のまとゐかなつばなぬく野にけふも暮らしつ(六百番歌合)

よそにては春のすさびと見ゆれども誰がため野べのつばなぬくらむ(現存和歌六帖)

つばな生ひし小野の芝ふの朝露をぬきちらしける玉かとぞ見る(千載和歌集)