プロレスの神様 カール・ゴッチ
「Never lie , never cheat , never quit. 技術と精神は常に一緒だ。決して嘘をつくな、決してごまかすな、決して放棄するな」
東京都文京区のお寺にひっそりと佇む墓に哲学者のような言葉が刻まれている。
プロレスの神様、実力世界一といわれた、カール・ゴッチの墓である。
彼の日本での門下生たちが昨年、死後10年を経て、建立した。
彼は興行、ショービジネスとしてのプロレスを否定、勝つことだけに執着して、ストイックなまでに自分の信念を貫く。
ショープロレス全盛の時代に、「強さ」だけを追い求めた格闘技の求道者であった。
そんな彼がアメリカマット界で干されることは自明の理であった。
まるで、古武士のような彼を高く評価したのは、日本人だけだったのかもしれない。
そういえば、彼は宮本武蔵を尊敬していたという。
初来日時、全盛期の吉村道明にジャーマン・スープレックスを決めるカール・クラウザーことカール・ゴッチ。
ゴッチと引き分けた力道山は、ゴッチを「強けりゃいいってもんじゃねえ」と評したとされる。
私にはガチンコ・オンリーのイメージの彼なのに、結構、吉村の技を受けているなあと見えたが・・・。
1924年ベルギー生まれ。ベルギー代表として、オリンピックにも出場。
本名カール・イスタス。
ドイツでプロ転向後、イングランドの“蛇の穴”ビリー・ライレー・ジムで修行。
その後、アメリカに転戦。
伝説の初代世界王者フランク・ゴッチにちなんで、カール・クラウザーから、カール・ゴッチに改名。
ドン・レオ・ジョナサンを破って、AWA世界チャンプになったこともある。
20世紀最強といわれたルー・テーズをもっとも苦しめた対戦相手でもあった。
しかし、前述のように相手の技を綺麗に受けない。ブックに従わない。
相手レスラー=商品に怪我させる。華がない。
すなわち、プロモーターにとって、一番、大切な観客動員力がないなどという理由でアメリカマット界から干される。
そんな彼が極める関節技は、1ミリのズレの妥協さえ許さない技術だ。
彼は「朝目覚めてから夜眠るまで常に素手でいかに効率良く人を殺せるかを考え続けている」という。
プロレスにショーを求める人には、とても理解ができない。
そんな彼を1967年、日本プロレスはトレーナーという形で拾った。
いわゆる、ゴッチ教室である。 新日本、UWFなどにも協力している。
猪木に卍固めやジャーマンを伝授したのは有名な話である。
彼の門下生として、アントニオ猪木をはじめ、藤原喜明、佐山サトル、前田日明らが育った。
半リタイヤしているのに、格闘技に歯は不利だと、何ともない歯を全部、抜いてしまった。
そんな信じられないエピソードは限りない。
プロレスではなく、彼がいうところのプロフェッショナル・レスリングのカテゴリーでは、カール・ゴッチはもっとも強いレスラーだったのではないだろうか。
2007年7月28日、フロリダ州タンパの病院で死去。享年82。
死ぬ直前まで、強くなるためのトレーニングを欠かさなかったという。
最近、カール・ゴッチというイメージそのものが、実はギミックだったのではないかと思うようになってきた。
もう一度、あのジャーマンを見たいものである。
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