のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

第 三 部 二、それぞれの戦い (地下牢)

2014-12-13 | 小説 黄泉の国より(ファンタジー)

地下牢

 

 「まず地下牢を調べる必要があります。」カルパコがウイズビー王子に進言した。

 「そうだな。地下牢と、それに続く祭壇を調べてみたい。」

 「行きましょう。」カルパコがはやる気持を押さえ切れないように、先を急いだ。

 「用心した方がいいぜ。何せここは黄泉の国だからな、何が起こるか分からない。慎重にいこうや。」ジルが大きなおなかを抱えて言った。

 「そうよ、カルパコ、焦らないで。」

 「何も焦ってる訳ではないさ。」

 「とにかく何が起こるか分からない。静かに行動するんだ。」王子がそう言って、音を立てないように歩きだした。他の者もその後について行った。

 「しっ、」王子が口に指を当てて皆に合図を送った。そして遠くの音を聞くように耳をすませた。

 「どうした。」ジルが小声で訊いた。

 「何か聞こえないか。」

 四人は地下通路の片隅に身を屈めて耳をそばだてた。押し潰されるような静けさの中に、最初は耳鳴りのような振動が起こり、やがてどこからともなく絞り上げるような音が伝わって来た。

 「何だろう。」

 「うめき声のようだわ。」

 「行ってみよう。」カルパコがそう行って、身を屈めたまま歩き始めた。

 「気をつけて。」エミーがカルパコに呼びかけた。

 奇妙な音は断続的に起こっていた。通路を深く進むにつれて、その音は大きくなっていった。それは何人ものうめき声のようだった。時折ズズズズ、ズズズズ、砂袋を引きずるような音が交ざっていた。

 「ねえ、あの変な音、何なのかしら?」エミーが誰にともなく訊いた。

 「何かが土の上をはい回るような音、図書館の地下で確かに聞いたことがある。一体何の音なんだろう。」カルパコが言った。

 「この奥の方から聞こえて来るようだが。」

 「地下牢だ。」カルパコが声を押さえて言った。

 通路の奥が仄かにオレンジ色に光っていた。その光に照らされて、鉄格子が両脇に見えるのだ。中の方はよく分からなかったが、何かが動いているらしかった。四人はゆっくりと注意深く進んで行った。空気が淀んで、ものの腐った匂いが立ち込めていた。

 「気味が悪いわ。」エミーがカルパコに寄り添った。

 「大丈夫だ。俺が付いているさ。」カルパコはエミーの手を取った。

 地下牢は洞窟を利用して作られたものらしく、地面から所々に大きな岩が突き出していた。王子達はその岩陰に身を隠しながら、様子を伺い、少しずつ奥の方に進んで行った。牢の前には誰もいなかった。牢番の姿はどこにもなかった。四人は少しずつ大胆になって牢に近づいた。牢には何体もの骸骨がつながれていた。手を壁に吊るされ、腕がもげているものや、首に枷をはめられたものまでいる。骸骨は皆一様に苦しげなうめき声を上げているのだ。

 「これ以上死にようのない連中だ、こうして朽ち果てるまで苦しむのだろうか。可哀想に。」ジルが胸の前に手を合わせた。

 「ここはきっと地獄なのよ。ほら、針の山まであるわ。」

 エミーの示した牢にはびっしりと鋭い針が敷き詰められ、その上に何体もの骸骨が串刺しにされてもがいていた。

 とっさにエミーはヅウワンの事を思い出した。ヅウワンはこんなふうに無数の針に突き刺されて死んだのだ。もしや、そう思ってとっさにエミーはその牢に駆け寄った。しかしそこにはヅウワンの姿はなかった。ホッとすると同時に、エミーはバックルパーと共に見た夢のことを思い出していた。あの時、ヅウワンは確かに兵隊に捕らえられたのだ。エミー達をかくまった罪でこの牢に入れられているかもしれない。あの夢は現実だったのだとパルマが言った。その通りなら、どこかにヅウワンがいる。エミーは妙な確信を持って、いくつもある地下牢を見て回った。

 「死にたい。」低いうめき声がはっきり言葉となって聞こえた。その牢を見ると、大きな石に押さえ付けられた骸骨がいた。身体を三つに折り曲げられていた。背骨を真ん中から折り畳まれているのだ。そしてその上から大きな切り出し石を乗せられて押さえつけられていた。

 「何と哀れな。いっそ死ねたらどんなに幸せだろうに。」

 「殺してくれ、殺してくれ、」骸骨がエミーを見てうめいた。

 「許して、何も出来ないの。」エミーは震えながら後ろに下がった。

 「ズズズズ、ズズズズ、」

 その時、奇妙な音が真近で聞こえた。四人は一斉に音のする方に耳を向けた。同時に身を岩陰に隠した。

 「ズズズズ、ズズズズ、」音は断続的に響いていた。時々ピシッという何かを叩くような音が聞こえたかと思うと、「休むな、声を出せ!」と命令口調の声が聞こえた。

 「こ、ろ、す、こ、ろ、す、ズズズズ、ズズズズ」

 不気味な声がはっきりと聞こえて来た。地下牢の奥の、祭壇のある部屋から聞こえてくるようだった。

 「一体何なんだ、あれは。」

 四人は身を隠しながら、奥の部屋に向かった。そしてそこで見た光景は異常なものだった。四人はそれが何なのかを理解するまで、かなりの時間がかかった。おぞましさで身がすくみ、エミーは岩場の陰で凍り付いてしまった。

 そこには王子のいう祭壇はなく,その代わりに巨大な石うすが取り付けらられていた。それは広い空間の中央に置かれた円形の舞台のように見えた。その石うすの周辺には歯車のように、何本もの丸木の棒が突き出ていた。その棒に十体づつの骸骨がしがみつき、同じ方向に押しているのだ。その度にズズズズ、ズズズズと巨大な石うすが回った。その石うすの上に三体の骸骨兵がムチを持って囚人達を監視していた。時折ムチをしならせて骸骨の体を打ちすえた。

 「声を出せ、休むな。」

 「こ、ろ、す、こ、ろ、す、こ、ろ、す。」

 囚人達は呻きながら声を上げた。その声は確かに殺すと聞こえた。すべての怒りを押し出すように骸骨達は悲痛な声を上げて石うすを押していくのだった。石うすに乗った骸骨兵は時折石うすの穴から頭蓋骨を投げ入れた。骨の砕ける音がはらわたに響いてきた。

 ズズズズ、ズズズズ、ズズズズ、石うすが回る度に、少しずつその周辺から白い粉がぱらぱらと落ちていた。人間の骨を巨大な石うすで粉にしているのだ。

 「一体、これは何をしているの。」エミーが王子に訊いた。

 「分からぬ。」

  「この国の処刑だろう。粉にされているのは牢に入れられた骸骨達の成れの果てかもしれないな。」ジルがこたえた。   

 「粉々にして、この世から消されるということか。」

 「その通りじゃ!」

 突然後ろから骸骨の声がした。声を出す度にガチガチあごの骨がぶつかる音が交ざっている。不気味な声だった。皆が振り向くと、そこにはゲッペル将軍がステッキをついて立っていた。その後ろには骸骨兵が槍を立てて並んでいた。

 「何者だ。」王子がとっさに身構えて腰の剣を抜いた。

 「無駄じゃ。」

 「そうかな。」王子はひるまなかった。

 そのとき、王子の首筋に短刀が突き付けられた。

 「動くな。」カルパコが王子の背後から短刀を突き付けたのだ。

 「お前は、どういうことだ、これは。」

 「カルパコ、やめて。」エミーが叫んだ。

 「剣を捨てろ。さもなければ一突きだ。」カルパコはすごんで言った。

 王子は剣を足元に捨てた。カルパコはそれを足で踏み付けた。     

  「よくやった、カルパコ、こ奴らを牢に入れるのじゃ。」ゲッペルが言った。

 「お前は、奴らの仲間に成り下がったのか。」王子が言った。

 「うるさい、歩け。」

 カルパコは王子の腕をつかみ、牢の方に引っ張って行った。骸骨兵達が周りを取り囲み、ジルとエミーを後ろに従わせた。カルパコはゲッペルが指示した牢に王子を送り込みその後にジルを入れて錠を落とした。

 「約束は果たした。エミーを自由にしてやってくれ。」

 「それは出来ぬ事じゃ。こ奴は別の女牢に入れておけ。」ゲッペルが骸骨兵に命令した。 「それでは話が違う。」カルパコが声を荒げた。

 「エミーを助けて欲しくば、残りの連中の始末をするのだ。」

 「何だと。」

 「ふぁっふぁっふぁ、憎いか、憎むがよい、」

 「くそっ、ギギギギ」

 「体中を憎しみで一杯にするがよい。ふぁっふぁっふぁっ。」

 「カルパコ、お願い、正気に戻って。」

 「この娘を連れて行くのじゃ。」

 「カルパコ、」

  「エミー!」カルパコは断末魔のような叫び声を上げた。

  骸骨兵は叫ぶエミーの両腕を抱えて、カルパコの前から連れ去ってしまった。

 「エミーを返せ。」カルパコはゲッペルに飛び掛かった。

  「無駄じゃ。」

 そう言ったかと思うと、ゲッペルはヒラリと身をかわしてカルパコをステッキで打ちすえた。

  「ギエッ」

 「馬鹿者め、」

  「ギギギギ、」カルパコはゲッペルのステッキの下でもがいた。

 「残りのもの達の始末をするのじゃ。そうすればエミーは助けてやろう。」

  「ほんとだな。」

 「行くがよい。」

  「分かった。」

  「分かりましたと言えぬのか。」ゲッペルが再びカルパコを打った。

  「ギギギギ、分、か、り、ま、し、た。」

  「よし、行け。」

  カルパコは地下室の階段を上がって行った。

 

 

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