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第 三 部 二、それぞれの戦い (セブズー市街)

2014-12-14 | 小説 黄泉の国より(ファンタジー)

セブズー市街

 

 地下室を出たゲッペルは、城の隠し通路を使って簡単にバックルパー達を外に導き出した。高台から望むセブズーの町は燃えるように真っ赤だった。空には赤黒い雲が垂れ込めていた。不気味で息苦しい空気が町全体を支配しているようだった。四人はしばらく呆然と丘に立ち尽くしたまま、セブズー市街を見下ろしていた。

  「何これ、」エグマがつぶやいた。

 「黄泉の国は真っ赤だったってエミーが言ってたが、本当だった。」ダルカンが一人つぶやいた。

 「これが黄泉の国か。」

 「そうだ、一度ここに来たときは、私とエミーはあの丘の上からこのセブズーの町を眺めた。あのランバード山の麓にできた洞窟から出たのだ。」

 バックルパーは向かいにあるランバード山の麓を指さした。

 「あんな所にも黄泉の国の入り口があるのか。」

 「それにしても私、息苦しくて仕方がないわ。この空気のせいかしら。」エグマが言った。

 「空気が重いのだ。腐って淀んでいるのだろう。」ゲッペルが言った。

 「さあ、行こうか。」バックルパーは市街への道に足を向けた。

 「そうだな。」

 四人はそのままセブズーの町に向かった。

 道は生の国と全く同じだった。ただ違うのは、周りの空気と左右が逆になっているということだけだったが、四人がこの黄泉の国で自由に動き回る妨げとなるものは何ひとつなかった。四人はいつものように、迷う事なくセブズーの町に入った。

 町には死人達が行き交っていた。ここでは、その姿は様々だった。完全に白骨化したものから、まだ腐肉が全身に付いているものまで、皆その自分の姿を自然に受け入れているようだった。

 「ここでは、骸骨は老人のようなものなんだ。肉の腐っていないものは若者ということになるらしい。我々はさしずめ生まれたての赤ん坊なんだ。」バックルパーが自分の経験を道々語った。

 「面白いな。」

 「ほんと、私達が赤ちゃんで、私もバックさんも同い年だなんて、なんだかおかしいわ。」

 そんな冗談を言い合っていたエグマとダルカンも、実際に死人の歩く姿を見て、そのおぞましさに震え上がった。

 肉が腐り、顔の形が崩れた死人とすれ違うと、エグマはダルカンにしがみついて目を瞑った。そのダルカンも思わず悲鳴を上げそうになって身を引くのだった。四人はしっかり死人の灰を顔に塗っていたが、その物腰はセブズーの町の中では異質なものとして目についた。

 四人はなるべく目立たないように注意して歩いていたが、そのぎこちなさは隠せなかった。石作りの家の前を通っていると、急に窓が開いて骸骨が顔を出した。その骸骨は驚いたように四人を見て、すぐに窓を閉めた。向こうの辻で、顔半分が骨だけになっている死人がいて、目が合うとさっと横道に消えた。

 「おかしい。」ゲッペルが立ち止まって言った。

 「どうした。」バックルパーが訊いた。

 「町のもの達は、我々の姿を見ると、何か恐ろしいものでも見るように逃げてしまうようだ。」

 「思い過ごしではないのか。」

 「いや、どうもそうではないらしい。あれを見ろ。」

 ゲッペルが指さした方を見ると、壁にポスターが張られていた。それはお尋ね者の顔を描いたポスターのようだったが、その顔はバックルパーそのものだったのである。その横にはエミーの顔まで張られていた。

 「これは何なんだ。なんて書いてあるのかさっぱり分からないが。」バックルパーは興味を引かれてポスターを見たが、くさびのような文字が並んでいるだけで、どうにもならなかった。

 「待って、これ、旧字体よ。私読めるわ。」エグマがポスターを見て言った。

 「本当にこれが読めるのか。」ゲッペルが問い返した。

 「大丈夫。」エグマはゲッペルの問いにうなずいて、ポスターを声に出して読んだ。

  『この者は凶悪な侵入者である。この顔を見たものは直ちに警備隊に届ける事、かくまった者は厳罰に処す。通報により逮捕に至った場合には報奨金を与える。』

  ポスターにはそう書かれていた。

 「これは大変だぜ。」ダルカンが言った。

  「町中にバックルパーとエミーの顔が知れ渡っているのよ。」

  「しかしこれをエミーが見たら怒るだろうな。」

 「どうしてよ。」エグマが聞き返した。

  「私もっと美人だってさ。」

  「まあ、ダルカンったら、こんなときに緊張感ないんだから。」

 「ごめんごめん。」

 「これはのんきにしていられないぞ。すでに通報されているかも知れぬ。」

 「身を隠すのだ。」

 四人は急いで通路を通り抜け、人通りのない路地を選んでセブズーの広場に向かった。どこからか声や物音が聞こえると、素早く物陰に身を隠しながら、四人は広場の見える路地までやって来た。

 その中央にセブ王の噴水が据え付けられてる。セブ王の像は左手を天に向かって差し上げていた。そしてその手のひらには赤い玉が握られていた。いななく馬の足元から赤い水が滝のように落ちていた。エミーが言っていた通りの噴水がそこにあった。

 しかしその噴水の周囲には警備隊の兵士が何人も立っていて、厳重な警備体制が敷かれているようだった。

 「我々の動きを知られているようだな。」ゲッペルが言った。

 「これはうかつに近づけないな。」バックルパーがつぶやいた。

 「噴水に近づくには、あの兵隊を何とかしなくてはいけませんね。」ダルカンが周囲を見回しながら言った。

  「少し作戦を練る必要があるな。」ゲッペルが言った時だった。

 「いたぞ!」四人の後ろから甲高い声がした。

 振り向くと、路地をふさぐように骸骨兵が立っていた。四人はとっさに広場の方に走り、次の路地に逃げ込もうとした。

 笛の音が鳴り響いた。広場につながる路地はいくつもあったが、そのすべての路地から兵士が現れた。

 「いたぞ!逃がすな!」

 バックルパー達は広場の中に、完全に取り囲まれた。そして中央の噴水にも兵士がいた。四人は逃げ場を失った。

 「ついて来い。」とっさにバックルパーが叫んだ。

 バックルパーは今やって来た路地の方に走りだした。そこには槍をもった骸骨兵が二体いたが、そこが一番手薄だったのだ。バックルパーは腰から紐を外した。それをぐるぐる振り回しながら二体の骸骨兵に突進して行った。骸骨兵は槍を構えてバックルパーに対抗しようとした。そのときバックルパーの紐が前に伸びて右側の槍に絡み付いた。バックルパーが紐を引くと骸骨兵が槍ごと前に引き倒された。その隙に、ゲッペルが左の槍の懐に飛び込んだ。そして槍をもぎ取ろうとした。骸骨兵はそれを跳ね返そうとして二人は揉み合った。そこにバックルパーの手刀が骸骨兵の首筋に振り下ろされた。ボコッと乾いた音がして頭蓋骨が首から転げ落ちた。それでも骸骨兵は抵抗をやめなかった。ゲッペルがその首のない骸骨兵の体をねじり横倒しにして投げ捨てた。乾いた音を立てて骨が路面に散乱した。

 「兵隊が来るわ!」広場の方から集まって来た数十体の骸骨兵が四人に迫っていた。

 「急げ!」バックルパーが叫んだ。

 四人は路地に逃げ込んだ。すると前にまた兵が現れた。

 「止まるんだ。」槍を突き立てて骸骨兵が叫んだ。

 その瞬間にバックルパーの紐が槍の方に伸びた。兵の槍が機敏に動いてその紐をたたき落とした。しかしゲッペルが兵の懐に飛び込んで剣を振り下ろした。ガシャッという音とともに骸骨兵の両の腕が槍ごと地面に落ちた。骸骨兵はひるまず右足でゲッペルを蹴りあげた。ゲッペルは路地を転がった。

 「キャーッ」エグマが悲鳴を上げた。

 それと同時に骸骨兵が乾いた音を立てて地面に倒れ込んだ。バックルパーの紐が骸骨兵の足をからめ捕り、そのまま横に払ったのだ。骸骨兵は路地の上にバラバラになって転がった。

 「大丈夫ですか。」ダルカンがゲッペルに駆け寄り助け起こした。

 「なに、たいしたことはない。ちと油断した。」そう言ってゲッペルが起き上がった。

 するとまた前に新手が現れた。後ろからも追っ手が迫っていた。

 「どけ!」バックルパーが声で相手を威圧した。

 相手は腕を大きく振って手招きをした。

 「何!」バックルパーはとっさに攻撃しようとした紐の動きを止めた。

 その骸骨は兵隊ではないらしかった。手には何も持っていなかった。その手が四人を招いているのだ。

  「早くこちらへ。」

  「お前は、」ゲッペルが用心深く相手を見た。

  「そんなことより、早く。」手招きする骸骨の鎖骨に黄色いものが見えた。

 「味方です!」ダルカンが叫んだ。

  「味方だわ!」エグマも声を上げた。

 「案内を頼む。」バックルパーが言った。

 バックルパーが言い終わらないうちに骸骨はもう路地を走り出していた。四人はその後について走った。小さな路地の角をいくつも曲がり、気がついたときには、後ろに骸骨兵の姿は見えなかった。

  「助かった。礼をいう。」ゲッペルが言った。

 「とにかく付いて来て下さい。仲間の所に案内します。」そう言って骸骨は四人を従えてセブズーの市街から姿を消した。

 

 

 

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