のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

第 二 部  五、依頼主  (ゲッペル将軍 )

2014-11-30 | 小説 黄泉の国より(ファンタジー)

ゲッペル将軍

 

 新緑の生々しい匂いが立ち込めている。梢をざわざわと風が通り抜けていった。深い山の中だ。深々と頭巾を被った男が太い幹を背にして立っていた。その前に片膝をついた黒服の男が首をたれている。

 「邪魔が入ったというのか、スパントル。」

  「申し訳ありません、ゲッペル様。不意を突かれまして。」

 頭を上げたスパントルの顔には表情がなかった。頭からすっぽりと黒いマスクを被っているのだ。

 「何者だったのだ。」

 「大きな男で、石つぶてと紐を操ります。石でやられて人間どもは皆倒されてしまいました。」

 「それでお前だけ逃げて来たというのだな。この馬鹿者!」

 ゲッペルと呼ばれた男は、杖を振り上げてスパントルを打った。杖を握る手がローブから出てあらわになった。その手には皮膚がなかった。白い骸骨の手がスパントルを打ちすえているのだ。

頭巾の中で、両の目だけが闇の中に光っていた。

 「お、お許し下さい、ゲッペル様。」

 「お前のような奴は、こうでもしなければ分からぬ。」

 「ヒーッ」

  ゲッペルは杖が折れそうなほどスパントルを打った。

  「二度と失敗は許さないぞ。そのときは首がないものと思え。」

 「よく分かりました、ゲッペル様。」

 「スパントル、心して答えよ、その男、他に特徴はなかったか。」

  「はっ、鼻の下に髭をたくわえていました。」

  「他には、」

 「助けに来たものは、男の他に、小さな女が、」

 「小さな女だと。」

 「仲間からエミーと呼ばれていました。」

 「何、すると男の方はバックルパーと言わなかったか。」

 「さあ、それは。しかし女の方が、男をバックと呼んでいました。」

 「バックルパーに違いあるまい。」

 「はあ、」

 「あ奴、こんな所にいたのか。」

 「ご存じで、ゲッペル様。」

 「黄泉の国に侵入して来おったのだ。」

 「人間どもに黄泉の国への道を知る者はいないはずですが。」

 「捕まえて槍で突き刺したとたんに、消えてしまった。煙のようにな。人間ならば、あの一突きで命が砕けても、消えることはない。」

  「人間でなければ、何者ですか。」

 「分からぬ。亡者があ奴らをかくまったので、捕らえて吐かせようとしたのだが、口を割らぬ。」

 「調べましょうか。」

 「二度と失敗は許さぬぞ、スパントル。」

 「どうかお任せを。」

 「古文書に手を出す子供らの身辺を探れ。その背後に子を操る者がいるはず。おそらくバックルパーという者も、その線でつながっているはずじゃ。」

 「なるほど。」

 「では行け。」

 スパントルと呼ばれた男が跳躍した。二メートルを越える木の枝に軽々と飛び乗り、次の跳躍でもう別の樹の梢に移っていた。

 「ヒューッ、ギギギギ」どこかで甲高い声が聞こえた。

 木立の下から、いつの間にかゲッペルの姿も闇に消えていた。

 

 

         次を読む

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 柏原ビェンナーレ11月30... | トップ | 柏原ビェンナーレ11月30... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

小説 黄泉の国より(ファンタジー)」カテゴリの最新記事