通路はやがて岩肌がむき出しのトンネルになり、そこを抜けると小高い丘に出た。二人は呆然としてその丘に立ち尽くした。
その眼下には異様な町の光景があった。町全体が炎に包まれているのではないかと思われた。青いはずの空は、全天がくぐもった様なオレンジ色に染まり、世界全体がその色を反映しているのだった。
「ここはセブズーの町、私達の町よ・・・ねバック。」エミーはバックルパーに訊いた。
「そのようだが」バックルパーは息をのんで眼下の町を見下ろした。
丘の麓に広がっている町は、セブズーの町に違いなかった。昨日まで見慣れた町そのものだった。その町が大地ごと炎の中に投げ込まれたような、異様な空気に支配されているのだ。
丘の背後には天まで届きそうな岩山がそびえていた。聖なる山ランバードだ。その山の頂には一年中消えない冠雪が見事な稜線を見せていたが、白いはずの雪は血の色をしていた。
「なんだこの色は」バックルパーは唸った。摩導師パルガの力を借りて黄泉の国まで、妻、ヅウワンを探しに来た。しかしその黄泉の国が、生の国と全く同じ姿をしていようとは想像もしていなかったのだ。ただ空気だけが炎のように燃えていた。その空気の色がここが黄泉の国だということを教えているようでもあった。
バックルパーは心の中で、妻、ヅウワンの姿を思い浮かべた。
ヅウワンは町の中心にある広場で串刺しになって死んだのだ。
その広場には王者の噴水があった。その中央には二本足で立ち上がっていななく馬にまたがって、左手を高々と上げている国の始祖セブ王の像が配置されている。セブ王を乗せた馬は球体の上に足をかけ、その球体は有機的に波打った円形の皿の真ん中に固定されていた。その皿には水がなみなみとたたえられ、波打った皿の縁から周囲に水を落としていた。その水は滝のように落ちて円形のプールに戻ってくる。その水面から無数の針が突き出していた。落ちればどんなものでも串刺しになって命を落とすしかない。
ヅウワンはエミーを助けようとして、そこに落ちたのだ。
ヅウワンの身体から赤いものがじわじわと広がり、プールは血の色に染まった。ヅウワンが死んだ王者の噴水は、眼下に広がる町の中央にそびえ立っていた。まるでヅウワンの血が噴水からあふれ出し、この世界を覆い尽くしたようなそんなおぞましい感覚がバックルパーの心の中に生まれた。
「バック、この色は母さんの血の色なの?」エミーが訊いた。エミーもまた同じことを考えていたのだ。
「ここは死者の棲む黄泉の国だ。死んでしまった数え切れない者達の血なのかも知れぬ。行くぞ。」バックルパーは自ら決心するように言った。