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反 乱
セブズーの市街を外れたランバード山脈の麓に黒い森が茂っている。人が入ると二度と出て来れないと言われる樹海がその奥に広がっている。昼間でも光が届かないその樹海には人を惑わす妖怪がいると信じられていた。そんな妖怪も逃げ出すような、人間の群れが
一つの集団を作って樹海の中に拠点を作っていた。
テリーをリーダーにした集団『黄色いふだ』が警備隊の追撃を逃れて逃げ込み、そこに拠点を構えたのだ。
「我らに正当な死を!」
「始祖王を追放せよ!」
「囚人を解放せよ!」
「我らに新たな命を!」
『黄色いふだ』の戦士達は口々に要求の叫び声を上げて士気をたかめ合った。
それに対して、槍が主力の警備隊は、森の中の戦いに苦戦を強いられ、ついに森を退き、その森を取り囲むように布陣を敷いた。
両者は森の中と外でにらみ合う膠着状態に陥った。その間に警備隊の兵員は増員され王軍が動いた。『黄色いふだ』は完全に森の中に閉じ込められてしまったように見えた。
宰相ゲッペルの作戦はほぼ予想どおりの展開となって成功した。しかし森に逃げ込んだ『黄色いふだ』は、逆にその森の中に釘付けにされてしまったのだ。総動員の作戦だっただけに、警備隊の側から言えば、反逆者集団を根こそぎ森に閉じ込めた格好になった。
将軍は兵を増員して、一人も森から出すなと命じた。
森は日が昇ると、町から山の谷あいに向かって谷風が吹く。そして日が沈めば谷あいから町に向かって山風が吹いてくる。今や時が移って、谷風が山風に変わろうとしていた。日が沈むのだ。
将軍は次に日が昇り、谷風が森を山に向かってなびかせ始める時、一斉に森に火を放ち、『黄色いふだ』の戦士を森と共に一体残らず焼き滅ぼそうと考えた。部下に薪を集めさせ、森の周辺に延々と薪の山を築いていった。それが一斉に燃え上がり、その炎が谷風にあおられて森を焼き尽くせば、『黄色いふだ』の戦士は全員火炎地獄の中で燃え尽きてしまうだろう。
森の戦士達は震え上がった。そして我先に森から出ようと走りだした。テリーが制止してその動きを辛うじて止めたとき、そこに、思わぬ出来事が起こった。にらみ合った警備隊の背後から火の手が上がったのだ。
その火の手はセブズーの市街からだった。
「何だあの火は!」
敵味方双方から、同じ叫び声が上がった。
「反乱だ、反乱が起こったぞ!」遠くからそんな声が聞こえた。
始祖王の圧政に耐えかねたセブズーの市民達が、バックルパー達の戦いに乗じて骸骨兵を倒した。それが引き金になったのだ。市民達は心に溜まっていたものを吐き出すように、手当たり次第に官舎や王立の建物をたたき壊し、火をつけた。市街は暴徒と化した民衆が渦巻いていた。
「森で解放軍が警備隊の大軍に包囲されている!今こそ立ち上がろう!」
ユングが群衆に向かって叫んだ。群衆は訳もなくユングの声に応じて集まって来た。ユングは高台に上ると、『黄色いふだ』を支援して、今こそ王政を倒す時だと熱を込めて主張した。群衆は拍手で答えた。
「我らに正当な死を!我らに新たな命を!」 ユングが叫ぶと、群衆が何度も唱和して繰り返した。
「正義は我らに、正義あるものは私に続け!」ユングは先頭に立って中央通りを歩き始めた。
ユングを先頭にした反乱の群衆は、中央通りを進むにつれてその人数が膨れ上がっていった。そして郊外に出るころには群衆は二千を越える大軍となっていた。その反乱の民衆が森を包囲している警備隊の背後に迫ったのだ。
「あれはセブズーの民衆だぞ!」
「おお!民衆が立ち上がったぞ!」
「万歳!」
森の中で、歓声が起こった。
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