次の朝8時に里依子から電話があって、40分にタクシーを拾って行くと伝えてきた。
今日は千歳から小樽までの間が、里依子と一緒にいられる唯一の時間となるだろう。それはここにやってくる時からわかっていたことで、里依子は小樽の親戚の家に、私は小樽の街を一人伊藤整の本を片手に歩き回る予定だった。
それは「若い詩人の肖像」という本で、詩人伊藤整の青春期をその詩情と共に描いた私小説だった。いい本だからと言って、友人から回ってきたときにはすでにその文庫本は手垢で膨れ上がっていた。それ以来私はこの本に魅せられてしまったのだ。
程なくタクシーが玄関に滑り込んできて里依子が降り立ってくる。私は彼女に向って手をあげ、促す彼女に従ってそのタクシーに乗り込んだ。
「よく眠れましたか。」目を細めて里依子が聞いた。
「ええぐっすりと。」そう答えながら私はフロントでもらった千歳市内の案内絵図を広げて、昨夜の居酒屋の位置を訪ねたりするうちにタクシーは駅に着いた。
HPのしてんてん
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