私はずっと芹里奈を愛し続けてきたと思っていた。
芹里奈が一番幸せになること、それを願い続けるのが私の愛の形なのだと信じてきたのは、失うことで傷つくことを恐れた私の無垢な心が作り出した鎧だったのかも知れない。
私は結局、この10年を虚構の中で無為に過ごしてきたのだろうか。
事実はどうあれ、地下道の靴の前で体験する恐怖には、私の全身の細胞を一斉に目覚めさせ激しく生きようとして泡立つような実感がある。
そしてこの恐怖から必死で逃げようとする私がここにいるのだ。
私にとって芹里奈は本当のところ何だったのか、私とA子の間にある越えられない山・・・
無意識のうちに私は古いアルバムを取り出していた。カバーを抜いて扉を開けるとはらりと一通の封書が落ちた。
芹里奈からの最後の手紙だった。その文面は一字一句覚えている。
私はその封書を脇によけて、一枚ずつアルバムを開いてみた。
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