雪の浜辺には3人ほどの人がいた。何をしているのか知れなかったが悠長に陸揚げされた船の舳先でスコップをふるっていた。
その一団を遠目にして、私は雪の上を注意深く進んでいった。下手をすると柔らかい雪を深く踏み込んで、ブーツが埋まってしまうのだ。まるで地雷原に足を踏み込むようにしてようやく浜を尽き、細いZ字の道を登り始めた。その道は幾分踏み固められており、滑ることに気を使うだけで、足を取られることはなかった。
10分ほど急な山路を登ったころに、上の方から数人の人が降りてきて目礼してすれ違った。それから数歩足を運んだ時だった。上から赤い羽織を着た小さな女の子が駆け降りてきた。片手に穂の長い枯草を握っていて、リズムをとって両手を羽のように動かすたびにその枯草が踊っている。
突然赤い羽織がつんのめるように見えた。女の子が足をつまずかせて、ちょうど私の手前で雪の中に頭から倒れ込んだのだ。女の子は泣きもです、しばらくそのまま起き上がろうとはしなかった。
私は急いで駆け寄って見たが、怪我もないようなので、危ないよと言って頭を撫ぜてやった。
すると女の子は黒く大きな目をまん丸に見開いて私を見た。それでいて人形のように表情を動かず、倒れたまま目を離さないでしんしんと私を見つめるのだ。それがとても長い時間のように思えたのだが、突然起き上がると声も出さず又駆け降りて行った。
気がつけば下から立ち止まってこちらを見ていた人たちの一団に飛び込み、女の子は父親らしき男の背に乗せられててやがて峠の下に消えた。
HPのしてんてん
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