私は雪に埋もれた堆肥の山の頂上で身動きが出来なくなり、情けない恰好でオロオロと考えあぐねていた。
やがて窮して私は前方の道のない雪の上に飛び降りるしかないと思われた。しかしその雪の下には何があるか分からない。肥溜めでもあれば私は最悪の状態に陥るだろう。足場の定まらない腐った豆腐のような頂に立たされて、見まわす周囲の白い雪の無表情な静まりが、そのどこに足を踏み入れても私をさらに窮地に陥れる罠のように思わせるのだった。
私はいつまでも決心するとことができず、鼻につくアンモニア臭に悩まされながら必死で周りの雪の表情を探した。そしてようやく前方にかすかな足跡を発見したのだ。
その足跡はなめらかな雪の上にひとつだけ残されていて、それが右足なのか左足なのかも分からない。なぜあのような足跡が出来たのか、考えてみれば奇妙なことであったが、今の私にはそんな疑問よりも救いの御印なのだった。少なくともあの地面だけは肥溜めではないのだ。
それでも私は何度か逡巡して、ようやく思い切って飛び降りた。地面は固かった。
しかしそこから先の雪は吹きだまりになっていて、ほとんど全身を雪まみれにして進まねばならなかった。相変わらず悲惨な状態に変わりなかったが馬糞まみれになるよりはましだろうと慰めながら、私は非常な努力をして建物の裏を回り、やっとの思いで道に出ることができた。
HPのしてんてん
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