こうした失敗を繰り返すうちに、どうやらこの辺りの道はこの農場から先には行けないのかも知れないと思い始めた。ポプラ並木からやって来て、かまぼこ屋根をした小さな建物が並ぶこの農場をめぐる道は袋小路になっているのだ。主屋のある通りに行くためにはどうやら引き返すしかないらしい。
はるか向こうに主屋がその裏側を見せていた。そしてそこに続く地平はここから一面の降り積もった雪の原であった。
雪原を見渡した時、突然私の思いの中に一つの考えが浮かんできた。
「雪の上を歩こう」
同じところを歩くのはつまらない。今歩いてきた道はもうすでに自分のものになっている。その細く長い道を引き返すよりも新たな冒険の方がいいに決まっているだろう。雪の上を歩くのはこの二日の間に何度も経験があったし、何よりここを一直線に行けば主屋への最短距離だと考えたのだ。
ゆっくりと注意深く雪の上に登って行った。以外に雪は固かった。ブーツの踝辺りまで踏み込んで足元は落ち着いた。それは伊藤整の文学碑のある丘を歩いた時と同じ感覚だった。
しかしやがてその雪原は私の足を膝まで奪うようになったのだ。進み始めてまだ数刻も経っていなかった。焦って足を動かせば一層深く雪に埋もれてしまう。主屋に緯たる雪原が延々と続いている。私はただ進むことだけを考えた。
やっとの思いで雪原を半ばまで来たとき、急に深くなって私は腰まで雪に埋もれてしまった。
私は不安より、こんな姿を誰かに見られはしないだろうかという心配から辺りを見回した。幸い人影はどこにも無く、周辺の建物には灯りも見えなかった。ただ遠くに主屋を中心に並んでいる建物からはチラチラと灯りが届いていた。
私は腰まで埋もれた体を泳ぐようにして抜き出し、這いつくばり転げながら雪の上を進んで行った。数時間前、小樽を彷徨していたことが夢のように感じられた。今この瞬間にあるものは深い雪と、そこを進もうとする私の思いと焦りだけだった。
HPのしてんてん
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