のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

道立近代美術館 5

2009-09-15 | 小説 忍路(おしょろ)

 「どうしたの?」私が突然笑ったので、里依子が不思議そうに私を見た。
 私は昨夜の居酒屋の話をし、札幌の地下鉄の車輪のことを説明した。ここでは普通なんですけどねと、里依子が笑顔で還した。
 そうすると、夏、この地下鉄には風鈴が付けられるのだという板前の信じられない話も、本当のことなのかも知れない。思いだして私は里依子にそのことを聞いてみた。すると彼女は頷き、車両の天井を指差した。そこには大きな通気口が取り付けられていた。そこに風鈴が取り付けられるのだという。
 空調の風の流れに風鈴が涼しげな音を奏でるのだろうか、その風鈴がどの部分にどんな風に吊下げられるのか、私には想像出来なかった。しかし夏、風鈴の音を聞きながら電車に揺られるなど、誰が考えたのだろう。
 電車はゴムタイヤのために、地下を走っているにもかかわらず、騒音がなかった。静かに走って行く電車の中で風鈴は優雅な音色を出し、それはよく車内に響き渡るだろう。それは大都市の騒音電車とは違って、多くの潤いと夢を乗客に与えることだろう。私はそのような北国の人々の心情を羨ましいと思った。
 あるいはこの地の人々は色彩を実によく楽しんで使い、それを生活に取り入れているようなところがあり、この地下鉄の構内でさえ、その意味でいかにも北国らしかった。



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