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「おはよう。」
「オッス、」
「おはよう、いい天気ね。」
「ああ、絶好の調査日和だ。」
四人はセブズーの広場に配されたセブ王の噴水前に集合した。奇妙な依頼文が舞い込んだ次の日曜日の朝だった。
「この噴水に何か秘密が隠されているのだろうか。」カルパコが噴水を見上げながら言った。
等身大より少し大きめの馬が前足を振り上げ、後ろ脚で球体を踏み締めていなないている。その馬の背にセブ王がまたがり、意気揚々とした姿で左手を大空に向かって突き上げている。躍動感のある彫刻がまず見る者の目を釘付けにする。馬の足元から周囲に水があふれ出て、滝のように円形をした大きな噴水プールに落ちている。馬と球体を受け止めている大きな皿は、周囲がアコヤ貝のように波打っており、大方の水はその低いところから流れ落ちているのだった。
高さは優に十メートルは越えているだろう。四人が立っているプールの縁から中央の像までは五メートルはあるに違いない。
四人はプールの縁に腰を下ろしたり、足を乗せたりして、セブ王の像を見つめていた。 「何か、見えるか。」ダルカンが誰にともなく口を切った。
「いつもの噴水だわね。」
「でも、どうしてこんなにものものしいのかな。」
「何が?」
「ほら、これよ。」エミーがプールの中にびっしりと敷き詰められている、鋭い針の先を指さした。
「だれもあの像に近づけないようにしているのだろう。」
「ということは、やはりあの像には何か秘密が隠されていると考えていいわね。」エグマがセブ王の像を見つめながら言った。
「うん、一般の人には知られたくない秘密があるのかもしれない。」
「ねえ、あのセブ王の像だけど、ちょっと変じゃない。」
「何が?俺にはいつもの像にしか見えないけどな、エミー。」
「それはそうだけど、よく見て、セブ王の左手。」
「左手がどうしたの?」
エグマが身を乗り出してセブ王の左手を見上げた。エグマは視力が弱い。そのエグマにつられて、みんなはセブ王の左手に目を集めた。
セブ王の左手は、しっかりと天空に向かって差し上げられていた。いつも見慣れたセブ王の像だ。そこに何の疑問も挟んだことはなかった。
「あの左手がどうしたというんだ、エミー。」ダルカンが像から目を離さないで訊いた。
「あの手の開き方よ、何かを持っていたような・・・。」
「そういえば、何かを持っているような形ね。」
「でしょう、あの手は、ほらこうなっているでしょう。」
エミーは像の真似をして見せた。左手は手のひらを上に向けて、何かを大事に持っているように見える。
「そういえば、何か大切なものを手に持って天に捧げているような、そんな手つきだね。」ダルカンがエミーの真似をしてセブ王の形になった。
「ちょっと待て、あの手のひらには確かに何かがあるぜ、よく見てみろよ。ほら、あの手のひらの中心あたりだ。」
「本当、見えるわ。何かが手のひらの上に見えるわ。」
「私には見えないわ。」
「お前の目では無理かもしれないが、確かに手のひらに何か出っ張っているものがあるようだな。」ダルカンがエグマに言った。
「何だろう。」
「分からないわ。」
あまりに遠すぎて、左の手のひらに見える突起のようなものが何なのかはっきり分からないのだ。ダルカンがリュックの中から遠めがねを取り出してセブ王の手のひらを凝視した。
「どうだ、何か見えるか。」
「いや、何なのだろう、留め金のようにも見えるが、」そう言ってダルカンは遠めがねをカルパコに渡した。
「うむ、何だろうな。」カルパコは催促されてエグマに遠めがねを手渡した。
「見えるわ、確かに、手のひらに何かがあるわね。」
「それは分かっているのよ。」そう言ってエミーが遠めがねを受け取った。
「何かを持っていて、それがなくなった、のじゃないかしら。」
「確かに、そんなふうにも見えるね。」
それ以上収穫がないと分かって、四人は台座の方に注目を移していった。水は膜のように落ちて、その向こうに大きな台座が隠れている。落ちる水の薄くなった所からその姿が見え隠れしていた。
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