緩やかな登り坂をしばらく行って左に折れ、小さな橋を渡った。その橋の上から見える小川は雪明りの中でおとぎの国のような優しさが感じられた。
里依子の寮はそこからすぐ左手に見えた。それは想像よりも大きく、立派な建物であった。浅黄色の壁はしかしこの夜の雪には合わないようにも思われた。幾分機能的な形がそう思わせるのかも知れなかったし、橋から見た雪景色とあまりに対照的なためだったのかも知れない。
門限を過ぎて帰ってきたときなどは、窓に石を投げて門を開けてもらうと里依子は言っていたが、その窓はいくつも道路に面していて、里依子はどの窓に向って石を投げるんだろうと思いながら、彼女のそのほほ笑ましい寮生活に思いをめぐらせた。
門の手前で私達は明日の約束を交わして別れた。
私は元来た道を帰っていった。その胸の中にはまだたくさんの話し足りない不満が残っていた。しかしそれもまたこの身を締め上げる冷気に託して、私はぐっと胸元を引き締めた。心の目は明日の方に向うようだった。
居酒屋 ==了==
HPのしてんてん
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