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(19)-2
それにしても、バリオン星は確かに強大な力を持っていました。
チュウスケ自らがバリオンから発射された黄金の槍の餌食になって大けがをしたばかりなのです。
それは見たこともない武器でした。
いかにストレンジの軍を掌握して軍備を整えてもストレンジには勝てない。それはチュウスケにも分かっていました。
けれども、いかに強大な軍隊であっても、内に潜り込めばチュウスケの思うつぼです。
ストレンジ軍を手に入れて攻め入れば、たとえ勝てなくてもバリオンに潜り込める。そう考えていました。
チュウスケにとって、軍はしょせん道具に過ぎないのです。
仮に王軍が勢力を盛り返して来たのなら、それはそれで好都合。餌をなくしたわが軍が大喜びするだろう。
怒りをどこまでも膨らませてやらねばならないとチュウスケは考えるのでした。
「親分、兵士たちは戦う相手がなくなって怒り狂っているカウ。もう限界ですカウカウ。」
「分かっているチュウのだ。山狩りでもなんでもさせておくのだチュ。この役立たずめ!」
チュウスケはいら立ちを隠せません。
「ポンスケ、反抗する兵士を生きたまま捕えてくるのだチュ。」
「親分、それは無理ですポンポン。兵たちは相手を殺すまで攻撃をやめないポン。」
「馬鹿者!とにかく生きたまま連れてこいチュのだ。」
「へい親分任せてください。カウ。」
「衛兵を生きたまま。へいへい親分ポンポン。」
調子のいいポンスケはカンスケ頼りの安請け合いです。
「分かったらさっさと行って衛兵を捕らえてくるチュうのだ!!」
チュウスケの悪知恵が姫の攻略に何かを思いついたのです。
「おのれ、あのこわっぱ、わたチュが口を割らしてやるだチュ。」
今や事態を進めるためには、とらえた姫を堕とすしかないと、チュウスケは考えたのです。
その方法が突然ひらめいたのです。
王は取り逃がしたが姫はわが手にある。
こわっぱがどんなに強情でも、チュウスケにとって情は弱点以外の何ものでもありません。
チュウスケは一人笑みをこぼしました。
そのころ、スケール号はすでに王宮に侵入していました。
おぞましい光景を見て、誰もが心を痛めました。
それはスケール号の乗組員たちには想像できない風景だったのです。
バリオンの王様ですら、言葉を失いました。
幸せにも、艦長だけは揺りかごの中で両手を大の字に伸ばして眠っていました。
相変わらずその手を丸く握りしめて、かわいく柔らかいマシュマロのようでした。眠りながら口をもごもごしています。
北斗はスケール号の艦長になってからこれまで、かわいそうにお母さんのおっぱいをもらえていないのです。
もこりんの作るミルクはおいしいのですが、やっぱりお母さんが恋しいのでしょう。
おっぱいをのんでいる夢を見ているに違いありません。
地獄の光景を見た後で、隊員たちはそんな艦長の眠り顔を見るだけで癒されるのです。
もこりんが我慢できずに、艦長のほっぺをつんつんしました。見るともこりんが目に涙をためているのです。
「どうしたのダすか、もこりん。もこりんが泣いているダすよ。」
「もこりん、どうして泣いているの?」
ぐうすかとぴょんたが揺りかごのまわりにやってきて、もこりんの涙に気づいたのです。
「かわいそうでヤす。」
「何がかわいそうなんだい?」
博士もやってきました。
「お墓をつくるでヤす。」
もこりんは愛用のツルハシを取り出して言いました。もこりんは穴掘りの名人だったのです。
「何を言っているんだよ、もこりん。おかしなやつだな。縁起でもないこと言ったらだめだよ。」
「おかしくなんかないでヤす!!」
もこりんがむきになって言いました。
「もこりんは、あの兵士たちのことを言っているのだね。」
博士はもこりんの肩に手を当てて言いました。もこりんの思いに心打たれたのです。
王宮の石畳のいたるところに兵士の躯が転がっています。
もこりんはそれを見て涙を流したのだと博士は思ったのです。
「あんなにたくさん、まるでゴミみたいでヤす。艦長を見てたら、それがかわいそうになってきて、勝手に目から汗が出てきたんでヤすよ。泣いてなんかいないでヤす。」
「ありがとう、もこりん殿。あれは私の仲間たちだ。反乱軍といえど・・・真っ先に私が気づかねばならぬのに、それをもこりん殿が涙してくれたこと、我が王に報告したらきっと喜んでくれるだろう。」
エルがもこりんに敬礼してくれました。
「博士、お墓をつくりに行かせてほしいでヤす。」
「もこりん、かわいそうだが、今はそれが出来ないのだよ。」
「今は出来ぬが、この戦いが終わったら、この王もこの地に大きな墓石を作って弔う約束をしようぞ。」
バリオンの王様も合掌して言いました。
「賊を打倒して王は必ず国を挙げた弔いをなさる。まずは降りかかった火の粉を振り払わねばならぬのだ。もこりん殿。」
「ごめんね、みんな。きっとお墓をつくってあげるからね。」
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