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結局振り出しに戻ったスケール号です。乗組員たちはテーブルを囲んで会議中です。
{どうして原子の王様はスケール号を攻撃してきたのかーーその原因と対策}
議題を白いボードに書いてぴょんたが司会もやっています。博士がみんなの考えをききたいと言い出して始まった会議でした。
「まず、あの金の槍は間違いなく王様が投げてきた、それは間違いないですか?」
「確かに見たでヤす。金の槍が何本も投げ出されるところをしっかり見たでヤす。」
「スケール号に刺さった槍も同じところから投げられたのですか?」
「それは見てないでヤす・・・。」
「誰か見たものはいませんか。」
「覚えてないダすよ。確かあの時、王様の星を見ていたんダす。なんだか気持ちよくなって、夢を見ているような気分になってたのダしたからね・・。」
「お前は本当に寝てたんじゃないでヤすか、ぐうすか。」
「寝ていたって、もこりんには負けないダすよ。それよりお前はどうダすか。モニター見てなかったのダすか?」
もこりんとぐうすかはいつも良きライバルです。お互い口では負けません。
「そうでヤスけど、あの時はみんなでスケール号の窓から王様を見ていたでヤす。」もこりんも応戦です。
「そう言えばうっとりしていて、スケール号の悲鳴を聴くまでをよく覚えていないですね。」
「それが王様の作戦だったのではないでヤすか?攻撃を気付かせないように催眠術みたいな・・・」
「するともこりんは、王様が悪者だと思っているのだね。」博士が初めて口を開きました。
「王様は優しそうダしたが、何かが王様を悪者にしようとしているのダすかね?」
「もしかしたら博士、王様はスケール号を悪者と思ったのじゃないでしょうか。」
「どうしてだい?」
「だって博士、王様はスケール号のことは知らないのでしょう。だからきっと自分に近づいてくるスケール号を敵と間違えたのではないでしょうか。」
「なるほどそうだね。」
「博士はどう思っているのダすか。王様はいい者なのダすか?悪者ダすか?」
「私はぴょんたの意見にハッとさせられたよ。」
みんなが一斉に博士の方を見ました。
「原子の王様は太陽族なのだ。太陽族はね、宇宙のすべての命の始まりを大切に守っている一族なのだよ。そんな王様が宇宙語を消してしまうなんて考えられないんだ。宇宙語を守るのが王様なのだからね。つまり悪者ではないと私は思っている。」
「でもいきなり攻撃はひどいでヤす。」
「もこりんの言う通りだ。それでね、ぴょんたの話で気付いたんだよ。王様には今、戦っている敵がいるのではないかってね。」
「戦っている?敵ダすかぁ?」
「宇宙語を消そうとしている元凶かも知れない。」
「その敵に間違われたのですね。」
「それならスケール号は敵でないと王様に教えなきゃいけないでヤすよ。」
「はぶはぶ・・ひゃーぱぶぱぶ。」
上機嫌な艦長の声がしました。皆が艦長に顔を向けて、そのまま博士を見ました。
「そのために太陽の紋章があると艦長は言ったんだ。」
「あの紋章でヤすか。」
スケール号の操縦室の壁に掛けているオレンジ色のメダルです。
「あれを王様に見せたらきっとスケール号は味方だとわかってくれるのダすね。なるほど、いい考えダす。」
「艦長はすごいでヤすなぁ。」
「でもどうやって紋章を見せるんです?このままでは近寄れませんよ。」
「金の槍の威力はすごいでヤすからねぇ。」
「四方八方に広がっている光の線が一瞬で皆こちらに向かって飛んでくるんダす。どこに逃げても串刺しになってしまうダすよ。まだ声も届かない遠くから投げてくるのをはっきりこの目で見たのダすからね。」
「要するに近づけないということですね。」
ぴょんたの耳がしおれています。うまくいくと思ったら、黄金の槍はとんでもない武器なのです。それを防ぐ方法が見つかりません。なんとなく皆の意見が煮詰まってしまった時でした。
「ばふばふぱぶー ふーふーぱふ~」
艦長が両手を突き上げて、両足をばたばたさせました。
「ついさっきまで怪我をして泣いていたのに、元気でヤすなぁ。」
もこりんが艦長のほっぺたをつんつんしました。もこりんは前に艦長を泣かせて失敗したのに、どうしても柔らかいほっぺに触りたくなってしまうのです。すると今度はにっこり笑ったのです。それはそれはかわいい、心がとろけるような笑い顔です。
「艦長が笑ったでヤすよ。」
もこりんは思わずみんなに教えてやりました。教えなくても皆はとっくにつんつんしているもこりんを見ていたのですけれど。
「かわいいダすなぁ。」
自然に艦長の周りに皆が集まりました。
「元気元気。艦長元気になってよかったね。」
ぴょんたはことさら感慨深げでした。何しろ小さな背中から血が流れ、息が止まりそうなほど泣き叫ぶ艦長を抱きかかえて、一人で傷の手当てをしたのですから。傷口を見たとき、正直助けられるかどうか分からないくらい不安でした。でもお医者さんのぴょんたは、そんなことを口に出して言うことはできません。不安を隠して必死で頑張りました。ですから、元気な艦長を見るのは嬉しくて仕方がないのです。
艦長のあどけない笑い顔に博士も時を忘れていました。そのうちに、つい先ほど同じような気持になったことを思い出したのです。原子の王様に近づいて行ったとき。そうです、あの時も同じでした。あどけないものからあふれ出ているエネルギーのようなものなのでしょうか。理由も何もなくただ可愛く、優しく、嬉しい気分にしてくれる無垢なるエネルギーとしか言いようがありません。
そうなんです。先ほど、攻撃を気づかせないための王様の作戦かもしれないと、もこりんが言いました。それが少し博士には気がかりだったのです。北斗艦長の笑顔を見ているうちに、あれは王様のあどけないエネルギー波だったのだと改めて博士は思うのでした。王様があどけないというのはおかしいのですが、どこかにそんな純粋エネルギーがあって、流れ出ているのかもしれません。
「わうわうふわ~きゃっキャッきゃっ」
艦長はおしゃべりの度にみんなを笑いに誘います。皆はいつの間にか会議中のことも忘れてしまっているのです。
「はぷー」
艦長がそう言って手をまっすぐ空に伸ばして、その腕を自ら眺めているポーズをとりました。まるでそれは勇者の姿です。博士はジイジの目になって、北斗のそんな姿を剣を高々と天にかかげて見つめている勇者の姿に見えたのです。その時でした。壁に掛かった太陽の紋章にほのかな光が宿ったように見えました。オレンジ色の紋章の中心にかすかに見えた光がにじみ出てくるように広がり、皆が気づいたときには黄金色に輝き始めました。
「なんでやスか。」
「紋章が光ってます。」
「きれいダすな!」
隊員たちが口々に声を上げたときには、黄金の光が光芒となってスケール号の身体から飛び出し始めました。銀色の猫だったスケール号はとうとう黄金のスケール号に変身してしまったのです。
「ごろにゃーん」スケール号が嬉しそうに鳴き声を上げました。
「おうおう、これなら王様にも伝わるだろう。」博士は手をたたいて喜びました。
こうしてスケール号は再び原子の王様に会うために旅立ちました。
「ゴロにゃーン」
元気な鳴き声が漆黒の宇宙空間にとどろくとそのとたん、黄金の猫がふっとその姿を消したのです。
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