のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

第二部 六、新月の夜(黄泉の国へ3)

2014-12-10 | 小説 黄泉の国より(ファンタジー)

 

 

「ヴォウヅンクロウゾによって分かたれた世界を元どおりにするのじゃ。そのために軍隊は必要ない。我らがやらねばならぬことは、閉じ込められた生と死のエキスを解放することじゃ。」パルガが言った。

 パルマは王子とゲッペルにその方法を説明した。綿密に作戦を確認しあって、十人の戦士は立ち上がった。パルガが結界を解くと、乱れた空気が流れ込んで来た。

 「急ぐのじゃ、時間がない。」

  王子がパルガ達を王の寝室に連れて行った。王は悪夢にうなされているようだった。寝室に人が入っても気づかなかった。                  

  「いつもこうなのか。」

 「今日はまだ落ち着いている方だ。いつもはこちらが見ていられないような苦しみ方をする。」

  「王子よ、悪いが、これを王のベッドの四隅に立てて欲しいのじゃ。」

  「分かった。」ウイズビー王子はパルガに渡されたローソクをベッドの四隅に立てていった。すると突然部屋に黒い風が舞ってローソクを吹き飛ばした。

 「気づいたか、」パルガが呪文を唱え始めた。張り詰めた空気が乱れ、黒い陰のようなものが集まってパルガを覆い包もうとした。

 「パルガ、」エミーが叫んだ。

 「大丈夫じゃ。それより王子、この間にもう一度ローソクを立てるのだ。お前達も手伝うのだ、頼むぞ。」パルマが言った。

 王子は倒れたローソクを再び立てた。そのローソクをエミー達が倒れないように押さえた。そこにパルマが、小さく呪文を唱えながらローソクに火を灯していった。パルガを見ると、黒い霧が呪文を唱えるパルガにまつわり付いていた。

 「お前達、行け。」突然パルマが指を天に伸ばし、空に小さな円を描いた。

 「カウ、カウ、カウ」どこから現れたのか、数羽のカラスが王の寝室の高い天井を飛び回り、急降下してパルガに取り付いている黒い霧をついばみ始めた。黒い霧は小さな羽虫の塊だったのだ。黒い霧は四方に分散して飛び散った。

 「やった。」ダルカンが思わず叫んだ。

 黒い羽虫の集団が飛び散ると、無心に呪文を唱えるパルガの姿がはっきり見えた、パルガのせこけた頬が紅潮していた。カラスはベッドの天蓋にとまって辺りを注意深く見下ろしていた。

 「あっ、見て!」エグマが叫んだ。

 「どうした。」皆はエグマの指さす方を見た。黒い霧がローソクの炎に群がっていた。じりじりと虫の焦げる匂いが立ちのぼって来た、小さな羽虫が次々とローソクの炎に飛び込んでいるのだ。炎に焼かれても、次々に群がる羽虫の為に、ローソクの炎が小さくなり、消えそうになっていた。

 「キエーッ」突然パルガが奇声を上げて、黒い霧に向かって一本の指を伸ばしてかざした。パルガの指の先から、一瞬閃光が走ったように見えた。ローソクの炎はゆらりと揺れた。すると黒い霧の動きが止まり、床に黒い染みが出来上がった。羽虫が床に落ちてしまったのだ。羽根をたためずによろよろ動き回る虫もいたが、大半はそのまま床に落ちて動かなかった。

 「もう大丈夫じゃ。」パルガは深い息をはいて言った。

 「ありがたい礼をいう。」

 王子は今見た事をよく理解出来ないままパルガとパルマに礼を言った。王は結界の中で静かに眠っていた。

 「王のこんな寝顔を見るのは本当に久しいことだ。有り難い。」王子の目に涙がたまっていた。

 「付きの者に伝えるがよい。このローソクの炎を絶やさないようにな。」そう言いながらパルガは四隅のローソクを巡り、その足元の周囲に塩を撒いてローソクを囲んだ。

 「これで悪魔がこれを消すことはないじゃろう。」パルガは満足そうに言った。

  ウイズビー王子は従者を連れて来た。パルガは従者に必要な事を伝えて、王を守るように指示を出した。従者は深々と頭を下げた。

 「エミー、すまぬが、もう一度ここで、王のために歌ってはもらえぬか。」

 ウイズビー王子が言った。

 「でも王様は寝ていらっしゃいます。それにこの前みたいに、」エミーは戸惑った。

 「そうしてやりなされ。」パルマが言った。

 「今は結界の中、悪魔の意志は通らぬ。王の心も癒されよう。いい夢を見るじゃろう。」パルガが言った。

 「分かりました。」エミーは請われるままに、歌をうたい始めた。

 エミーは自分で気づかない間に、その歌唱の力を高めていた。王城に入って二度目の歌だった。エミーの心は、眠る王の全身を包み込むように動いた。初めて王の前で歌ったとき、緊張の余り自分でも何をしたか覚えていなかったが、王の激しい苦しみだけがエミーの脳裏に焼き付いていた。その王は今、エミーの前で安らかに寝息を立てている。苦悩のあまり深く刻まれた顔の皺が哀れに思われた。エミーの歌声は優しい響きを生み出し、王の寝息と同調して体を振動させるようだった。王の眠った目尻から涙が一筋流れ落ちた。エミーは静かにうたい終えた。幸福な余韻が残った。

 「礼を言う。王はいい顔をしている。」王子はエミーを見て丁寧な言い方をした。

  そんな王子を見るカルパコの目が光った。それは激しい憎悪の目だった。しかしその目に気付く者はだれもいなかった。誰もが、王の寝顔に気を取られていた。

 「本当にいい夢を見ているようだぜ。」ジルが嬉しそうに言った。

 「もう大丈夫じゃろう。」

 「後は我らが、この計画を成功させる事だ。よいか、心してかかろうぞ。」パルマが皆を見回して言った。

 「どうしたカルパコ、」カルパコの様子に気づいたパルマが訊いた。

 「あ、いや、ちょっと考え事をしていたものですから。」

 「よいか、失敗は許されぬ。世界の平安がかかっておるのじゃ。分かるな。」

 「はい、すみません。」

 「では行くぞ。」パルマが号令をかけた。

 「その前にこれを塗るのじゃ。」パルガが懐から小さな袋を取り出した。中には白い粉が入っていた。

 「これは死人の灰」バックルパーが言った。

 「そうじゃ、これを身体に塗るのじゃ。」

  「分かった。」

 真っ先にバックルパーはパルガから灰を受け取り自分の身体に塗り込んだ。それに従って、全員が顔に死人の灰を付けた。十人の一行はあたかも死人のような冷たい顔つきになった。

 「よいか、向こうでは決してこの灰を落としてはならぬ。我らの正体を知られれば何かとやりにくいのじゃ。」

 「分かりました。」

 「王子よ、地下室に案内するのだ。」

 「承知した。」

 一行は王の寝室を出て、王宮の地下に続く通路に降りて行った。

 

 

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