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(23)-1
豊かな森をイメージさせる彫りもので埋め尽くされた豪華なベッドがありました。
中天に黄金色の太陽を模した天蓋が付けられ、白いレースのカーテンがベッドを覆っていました。
別の部屋には落ち着いた色調の調度品がおかれ、花柄の絨毯が敷き詰められています。
壁には暖炉があって、その上にアーチ状の飾り鏡がはめ込まれているのです。
テーブルとソファーはそれだけで和やかな会話が交わされているように見えました。
そんな迎賓の間は廊下を挟んで12室ありました。
四季ごとに招く来賓をもてなすために設けられた部屋なのです。
ところがその中の一室が、今まで焚かれたことのない香が立ち込めていたのです。
香というべきか、爪を焼くような、硫黄とも腐臭ともつかない臭気なのです。
テーブルやソファーは部屋の隅に押しやられ、煤のこびりついた鍋と、かまどが持ち込まれていました。
火が焚かれ、その周囲の絨毯は茶褐色に変色しています。
胸を突く臭気はそこから出ているのです。
その横にはそっけない革張りのベンチが置かれていました。
天蓋から垂れ下がるレースのカーテンが古びてくすみ、所々に赤黒い斑点が飛び散っています。
そのカーテンに透けて見える人影がありました。
カーテンをくぐると、ベッドに横たわっている者がいました。
苦痛に耐えているのでしょうか。
ときおり顔がゆがむのです。
やつれて乾燥した肌が逆立っています。
けれどもよく見ればまだ少女なのです。
その少女こそ、エルが必死で探し求めていた人、ストレンジのお姫様フェルミンでした。
フェルミンは王を逃がした後自ら渦中に戻りました。
それは地下道を消すためばかりではありません。
王を守るために戦っている衛兵たちを王宮から脱出させなければならなかったのです。
「王は無事脱出した。生きて緑の穴に逃げ延びよ。」
フェルミンは衛兵に伝えながら自らも脱出を図ったのです。
しかし逃げきれず反乱軍に取り押さえられてしまいました。
その時遠くにエルの姿が見えました。
エルは敵を押しのけ必死でこちらにやってこようとしていたのです。
フェルミンはそれを制し、取押さえられる寸前に誰にも分からない隠語を叫んで王を託したのです。
エルなら分かる。
自分にそう言い聞かせました。
連行される間にも隙を見ては自分の意思を示そうと試みました。
決してあきらめない。
必ず意思はつながると信じていたのです。
しかし監禁されて一体どれだけの時間が経つのかも分かりませんでした。
ここが迎賓の間だということは一目で分かりました。
しかしチュウスケの魔法で似ても似つかぬ異空間に変えられているのです。
出入り口は無く何度試してみても脱出は無理だと分かったのです。
そればかりか、チュウスケによる尋問は過酷なものでした。
様々な責め苦を受け、王の居場所を聞かれるのです。
ずるがしこいチュウスケの懐柔策には危うく心を動かされることもありました。
けれどもフェルミンはこの部屋に踏み込んでくるエルの姿を思い描いて自ら励ましてきたのでした。
いつものように部下がやってくるとフェルミンはベッドから連れ出され、鍋を煮詰めている部屋の黒革のベンチに座らされました。
「心配するな、姫。もうお前を責めはしないチュ。王の居場所を聞く必要はないチュのだ。」
「・・・・」
「よく今まで耐えてきた。褒めてやるチュ。しかしお前は無駄なことをした。悔しがるがいいだチュ。お前に会いたがっている者がいる。」
チュウスケが手を挙げて合図を送ると、頭巾をかぶった男が入ってきました。
その男がチュウスケの横に立つとゆっくり頭巾を外したのです。
「ダニール!」
「フェルミン、無事でよかった。あなたを助けるためにやって来た。」
「どうしてここに。」
「私は一度死んだ。王に捨てられてな。そしてこのチュウスケ親分に新しい命をいただいたのだ。」
「ダニール、何を馬鹿なことを言っているの。」
「王政はもう古いのだ。王のためにあなたが死ぬことはない。」
「緑の穴を知らないとは言えないだろうフェルミン。この男はわが軍の司令官だチュ。まもなく王のいる隠し城総攻撃が始まる。もうお前に用はないチュうことだ。」
「フェルミン、私はあなたを助けたい。これを飲むだけで楽になれる。私と一緒にきてくれ。」
「馬鹿なことを言わないで。眼を覚ましなさい。ダニール。」
フェルミンは立ち上がってダニールの腕をつかもうとしました。
すかさず取り押さえられ無理やりベンチに座らされると、ダニールは片膝をついて丸薬を差し出しました。
「いや!」
「エルならいいのか。」
「ダニール、お願いだからやめて。自分の言ってることがわかっているの。」
「いやだというなら、力ずくでも飲ましてやる。」
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(ちょっと一休み)
一度お世話になったラッズギャラリーが、淀屋橋のビル街に
引っ越し新装オープンしました。
今、私と同じ鉛筆作家の松田彰氏が個展を開いていて、
氏の絵画と同時に新ギャラリー見学をかねて出かけました。
旧会場の特徴である柱の有効利用を、新ギャラリーにも取り入れ、
入るとすぐラッズギャラリーと分かる雰囲気を保っていました。
松田氏の作品は、鉛筆をオブジェのように大胆に使い、
私とは全く違った世界を作りだしています。
密かにライバル視している自分に気付くことがよくあある作家です。
大小を自在に操る展示
正面の大作は小品72枚の組作品
小品だけの展示も
壁を取り込んだ一体感を見せて気持ちがいい空間をつくっています。
新ラッズギャラリーとのよき交歓を
伝えているようでした。
コロナ禍にも工夫されて
こんな接待をしていただきました。
LADSギャラリー
松田彰展
言葉のように
11月3日まで
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