雪解けの水が道路にあって、周囲の雪は黒ずんでいた。それは雪というよりシャーベットのようなものだった。
道が自然に登り始めるとすぐにその右手から疎林が立ち上がってくる。それはいつまでも登り道と共に伸び拡がってゆくらしかった。
私は何度かその林の中に入って行こうとしたが、そのたびに奥の未踏の雪溜まりに阻まれて空しく引き返さなければならなかった。しかしやがて広い通りが林の中に続いている場所に出、そこから細々と一条の人の足跡が続いてその奥に消えているのを目にした。淋しげでありながら、人のぬくもりを感じさせる一枚の絵のような眺めに心を奪われて、私は深い息を吸い込んだ。
足跡は私の足元から続いている。意味もなく私はただその足跡に自分の足を重ねてみた。雪の感触が靴の裏側から伝わり、思わず二の足を次の足跡の上に注意深く重ね、そうしてゆっくりと歩み始めた。
ザク、ザク、ときしむ雪の音だけが心地よく響いてあたりの静寂を破ってゆくのだ。
HPのしてんてん
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