(4)
「博士はどうして艦長と話ができるのですか。」食事のあと、ぴょんたが言い出しました。
「本当に艦長は話ができるのでヤすか。」
「寝ているか、泣いているかダすからね。でもわたスも艦長と話をしたいダす。」
「私が北斗、いや艦長と話ができるのは宇宙語があるからなのだよ。」
「宇宙語ってなんでヤすか?」もこりんが真っ先に質問しました。
「むつかしいのはいやダすよ、博士。」
「実はね、この宇宙そのものが宇宙語でできているのだよ。」
「意味が分かりません。」
「分からなくていいのだよ。ただ知ってほしいのは、この宇宙にあるどんな小さなもの一つだって、宇宙の全体とつながっていないものはないということなのだ。ぴょんただって、もこりんだって、ぐうすかだって同じなのだ。もちろん艦長も私も、それに食堂のおばさんもそうだ。みんながつながっている。それをつないでいるのが宇宙語なのだよ。」
「あっ、だからホットケーキともつながっているのダすか。」
「その通りだ、ぐうすか。よくわかったね。」
ジイジが感心してぐうすかに目をやると、たった今ぐうすかは枕に頭を乗せて眠ったばかりでした。
「今話していたのにもう寝ているでヤすか。」もこりんがあきれた顔をしました。
「変わらないなあぐうすかは。」ジイジが笑いました。
「むにゃむにゃ、それでホットケーキはおいしいのダすなぁ。むにゃむにゃ」ぐうすかの寝言です。
「いつもながら気味が悪いやだ。」ぴょんたが耳を折り曲げて言いました。
すると揺りかごから艦長の声が聞こえたのです。
「ㇵふー」あくびをしたついでに出たような声でした。
「今艦長はなんて言ったのでヤすか?博士。」もこりんが半分面白がって聞きました。
「はは、そうだね。自分に仲間が出来たと言って喜んでいるよ。」
「はふはふむにゃむにゃ?イチゴミルクダすか?」
「ぱふー」北斗は揺りかごの上でまん丸の目を開けてネコパンチをしていました。
話がなんとなく終わりになってから、ジイジは白い服を取り出しました。
「みんな、これはなんだかわかるかな?」
「博士の服ですね。」
「そうだ。」そう言ってジイジは服を着ました。白い実検着です。ジイジはやっと博士になる決心をしたのでした。それというのもスケール号が不思議な事件の探査に出発しなければならないことが分かったからです。博士はそのことを艦長と乗組員に伝えなければならないのです。博士は実験着のえりを下に引いて背筋を伸ばしました。少しは博士らしくなったかな?ジイジは食堂のガラス戸に写っている自分の姿をちらりと見て話始めました。
「みんなに連絡だ、聞いてほしい。」
改まった博士の様子に皆は黙って博士の方を見ました。
「スケール号は不思議な事件の探査に出発することになった。艦長は小さいので、乗組員のみんなには大変なことになるが、頑張ってもらいたい。」
三匹の乗組員は緊張して博士を見ました。と言っても、ぐうすかは寝たままでしたが。
「とても困っている赤ちゃんがいるんだ。今回はその赤ちゃんを助けるために出動することになった。」
「事件でヤすか?」
「詳しいことは中で話そう。みんな用意をしてスケール号に集合だ。」
「分かりました。」
「分かったでヤす。なんだかワクワクするでヤす。」
「久しぶりダすな。」ぐうすかも起き上がってきました。
今に限ったことではありませんが、不思議な奴だとジイジは思いました。
北斗には赤いつば付き帽子が用意されていました。勇敢な艦長のしるしです。でも空飛ぶ長靴はありませんでした。その代わり北斗艦長は空飛ぶ揺りかごに乗っているのです。
「バブー」艦長が声を上げました。
「準備完了です。」ぴょんたが一番乗りです。得意そうに揺りかごの前に立って言いました。
「用意ができたでヤす。」もこりんがツルハシを持ってぴょんたの横に立ちました。
「準備オオケーダす。」もこりんは腕に枕を抱えています。
「バブバブ」
艦長も元気な声を上げました。空飛ぶ揺りかごは北斗を元気にするものがそろっているに違いありません。あまり元気とは言えなかった北斗が一回り大きくなったように思えて、ジイジは嬉しいのです。
「それで博士、困っている赤ちゃんの話をしてください。」
「おお、そうだったね。」
博士は思い出したように、少し改まってみんなの前に立ちました。
「元気な赤ちゃん院というところで生まれた赤ちゃんなのだが、他の赤ちゃんより半年も早く生まれてしまった。」
「すごい!優秀な赤ちゃんでヤすね。」
「違うんだよもこりん。赤ちゃんはお母さんのおなかの中で栄養をもらって大きくなるというのは知っているね。」
「知っているでヤす。」
「すごいぞ、もこりん。そしたら赤ちゃんにしたら、半年も早く生まれるというのはどういうことかわかるかな。」
「はいはい!博士。」ぐうすかが勢いよく手をあげました。
「おお、ぐうすか、言ってごらん。」
「赤ちゃんが自分だと思ったらすぐわかるダすよ。半年も栄養もらえなかったら、わたスだったら死んでしまうダす。」
「その通りだ、ぐうすか。その子はまだ一人前の赤ちゃんになる前に、お母さんのおなかから出てきてしまったのだよ。」
「それじゃ、大変でヤすよ。どうなってしまうのでヤすか、その赤ちゃん。」
「そしたら博士、赤ちゃんはまだ半分しか身体が出来ていないのに、もう自分で生きていかないといけないという事ですか。」ぴょんたが口をはさみました。
「そうなのだ、ぴょんた。それがどれだけ大変なことか分かってくれるかな。」
「他のみんなはまだお母さんに栄養もらえるのに、その子だけもうお母さんからもらえないなんて、可哀そうすぎるでヤす。」もこりんが涙声になっています。
「その赤ちゃんはどうなるのでヤすか?博士。」
「お母さんの代わりをする特別の部屋があってね。産院の人たちが夜も寝ないで見守っているけれど安心できない。大変なことなのだ。」
「それでスケール号はどうするのです?」ぴょんたが聞きました。
「元気な赤ちゃん院に行って、まずその赤ちゃんに会うのだ。」
ジイジは博士に見えるように、胸を張って言いました。
「私を覚えているかいぴょんた。私がスケール号を操って、おばあさんの頭の中に入っていたことがあっただろう。君は自分を犠牲にしておばあさんの中にいた女の子を助けたことがあったね。ほら、あの時の艦長だったのだよ。」
「おじいさんの艦長なんていなかったですよ。」
少しでも気付いてもらいたいと思いましたが、この子たちの艦長の記憶が今の自分とつながらないのも仕方がないのかも知れません。ジイジは少し寂しくなりましたが、そんなことは言っていられません。今は博士となって、北斗を支えようと決心するのでした。
「艦長、元気な赤ちゃん院に行こう。スケール号にそう命令するだけでいい。」博士は揺りかごの北斗に声をかけました。
「はふー」北斗はかわいらしい握りこぶしを振ってスケール号に命令しました。握りこぶしは操縦かんのつもりなのでしょう。それと同時に赤い操縦かんがカタンと動いたのです。
「ゴロにゃーン」
銀色の猫がしなやかに動いてビルの屋上に駆け上がると、空に向かって元気よく飛びあがりました。
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