のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
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三、ユング司書(ユングの死)2

2014-10-29 | 小説 黄泉の国より(ファンタジー)

「何をそんなに驚いているんだ。」後ろにカルパコが立っていた。

 「カルパコ、もう、びっくりさせないでよ。」

 「ごめん、ごめん、なにか深刻そうだったから声をかけそびれちゃって。」

 「ちょっと考え事してたの。」エミーが言い訳をした。

 「おーい、」

 ダルカンとエグマが手を振っている。皆がそろうと、エミーの不安もあっという間に消えてしまう。アモイ探偵団の力なのだ。

 「さあ、行こうか。」四人は図書館に向かった。

 エミーは図書館の司書室の窓からユングの姿を探した。しかしいつもの、ユングの席は空席だった。図書室のカウンターにも姿はなかった。

 「すみません、ユングさんはどこにいますか。今日約束していたのですけれど。」エミーはカウンターのミネルバという名の女性司書にたずねた。

 「今日はまだ来られていません。」

 「休んでいるんですか。」

 「何かあったのかもしれません。彼が無断で休むなんて、今までなかったことですから。ちょっと心配しているんです。」

 「そうですか、私、これから家の方に行ってみます。」

 「そう、そうしてもらえれば嬉しいわ。」

 エミーは不安になった。三人の先頭に立って、急ぎ足でエミーはユングのアパートに急いだ。ユングはバックルパーと子供のころからの友達だった。そんな関係で、エミーはバックルパーに連れられてよくユングのアパートに行ったのだ。

 ユングはまじめで、約束を破ったことは一度もなかった。どんな小さな約束でも決して忘れることはなかった。小さなエミーに対してもそれは同じだった。そのユングが、今日無断で休んでいるというのだ。病気かもしれない。ユングは独身だから、きっと不便をしているだろう。エミーはカルパコを好きになるまで、ユングのお嫁さんになりたいと思っていた。どうしたんだろう、妙に胸騒ぎがする。

 図書館から二十分ほど歩いて、四人はユングのアパートについた。   ドアの前に立ってノックをした。   返事はなかった。   二度三度とドアをたたいてユングの名を呼んだ。   ドアのノブに手をかけると、カチっと音がしてドアが開いた。   鍵がかかっていなかった。   エミーは波立つ心を押さえてドアを開けた。   ユングの姿はなかった。   エミーはユングを呼んだ。  返事はなかった。   四人は顔を見合わせ、そして部屋の中に入って行った。   廊下を抜け、居間のドアを開けた。  整頓された部屋が見えた。   隣のドアをゆっくり開けた。   書斎だ。   そこにもユングの姿はなかった。   机の上に書きかけの手紙があった。   エミーの名が書かれていた。   エミーは不安げに手紙を取り上げた。   紙を広げると、建物の配置図が書かれていた。   その紙に血がついていた。   すると、机の縁にも血のついているのが目に入った。  机の縁を血糊のついた手が触った跡だった。  その血は床にも落ちていた。血の滴った跡は、転々と床を這い、風呂場のドアの前まで続いていた。  ドアに手をかけた。  ドアが動いた。  ドアの向こうに洗面台が見えた。  水槽は赤黒い血でまみれていた。  思わずエミーは手で口を押さえた。  洗面台の下にうつ伏せに倒れている人がいた。

 「キャーッ」次々に悲鳴が上がった。ユングが血まみれで倒れているのだ。

 エミーはユングに駆け寄った。背中がかすかに動いて、苦しそうに息をはいていた。

 「ユング、しっかりして、」エミーがユングにしがみついた。

 「しっかりして下さい。」カルパコがユングを抱き、頭を上げた。血はユングの口元からまだあふれていた。大量の吐血だった。

  カルパコとダルカンがユングをベッドに運んだ。エグマは町の医者の所に走った。エミーはバックルパーを呼びに駆け出した。

 バックルパーが駆けつけたときには、医者が手当をしている所だった。カルパコとダルカンがユングの体をきれいに拭いていた。

 「ユング!」バックルパーは狂ったように叫んでユングのベッドに駆け寄った。ユングの心臓は止まりかかっていた。

 「どうしたんだ、しっかりしろ、ユング、」バックルパーはユングの手を握った。ユングの手がかすかに動いた。そして苦しそうに口元を動かした。バックルパーに何かを言っているようだった。 

 「何か言いたいのかユング。」バックルパーは両手でユングの手を握り、顔を近づけた。ユングはそれきり動かなくなった。目が閉じられた。ユングの全身から力が抜けて行くのをバックルパーは、自分の両の手に感じ取った。

 「ユング!」バックルパーはユングにしがみつき、恐ろしい形相で泣き崩れた。そのあまりの激しさに、エミーは自分の悲しみを忘れていた。医者はユングの脈を取り、ユングの臨終を告げた。そこにヅウワンが駆けつけて来た。

 「間に合わなかったのね、」息を切らしてヅウワンはバックルパーとユングを見下ろした。

 「母さん。」エミーはヅウワンに身を寄せた。

 「エミー、」ヅウワンはエミーを抱き締めた。

 医者はカバンをさげて出て行き、カルパコとエグマとダルカンは茫然と立ち尽くしていた。 

 

 

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