隠れ家
久しぶりに対面したバックルパーとユングがしっかりと抱き合った。
「またやって来ると思っていたよ。」ユングが笑いながら言った。
「お陰で助かったよ。」バックルパーが礼を言った。
複雑に立ち込めた建物の群れの中にユング達の仲間が集まるアジトがあった。その一室にバックルパー達四人が招き入れられていた。
セブズーの広場から、警備兵に追われたバックルパー達が、アジトの仲間に助けられてここまでやって来たのだった。部屋の中には、ユングの他に、アジトの仲間が五人いた。それぞれが長いテーブルに並んで座っており、順に、テリー、バッカル、クントス、パオエル、そしてジムーロと、自己紹介した。四人は歓迎を受けて迎えられ、同じテーブルに付いていたのだ。
「あなた達は一体どんな仲間なのですか。」ゲッペルが訊いた。
「我々は『黄色いふだ』と呼ばれるこの国の解放軍です。長い始祖王の支配から国民を解放しようとしているのです。」アジトのリーダー、テリーが答えた。
アジトの仲間は、ユングのように、まだ骸骨になっていない者が多かった。黄泉の国のいわゆる若い集団だった。そして誰の胸にも黄色いふだがつけられていた。
「その胸の黄色いふだは、もしかするとこれと同じものではないですか。」エグマがパルマにもらった黄色いふだを見せた。
「そうです。生前、パルマにもらった黄色いふだが我々の支えなのです。魔物に命を奪われたとき、誰もがこのふだを持っていました。そしてちぎれた半分を握り締めたままこの世界に来たのです。この国の民を救うためにはパルマの教えがどうしても必要なのです。」
「私達はそのパルマと共に生きたままこの国にやって来たのです。」ダルカンが声高に応えた。
「知っています。」
「パルマから連絡が?」バックルパーが訊いた。
「そうです、そしてあなた方を助けよと。」
「では私達がここに何をしにきたかすでに知っているのだな。」
「もちろんです。」
「それはありがたい。」
「それにしてもパルマとは何ものなのだ。こんな所にまでその名を聞こうとは、思いもよらないことばかりだ。」バックルパーがユングを見て言った。
「パルマは生と死を知り尽くした者だ。我らの真の指導者なのだ。」ユングが答えた。
「この国では、国民は生きることも死ぬことも出来ずに、何百年もの間苦しみ続けているのです。すべては王の支配が始まってから作り出された苦難なのです。この苦難をうち破るために、パルマの教えは我々にはまさに救いなのです。」テリーが続けた。
「我々は何としてもこの国を魔物から救わねばならないのだ。そしてそれがお前達の国を救うことにもつながるのだバックルパー。パルマはその方法を知っているのだ。」ユングが言った。
「そうだったのか。ユング、俺は今ようやく分かったよ。お前がエミー達に何をしようとしていたのか。もやもやした気分が一変に吹き飛んでしまった。」バックルパーがはっきりした口調で言った。
「すまなかったバックルパー、本当は始めに話しておくべきだったのだが、魔物の力が君達夫婦にまで及ぶのを恐れたのだ。」
「ユング、俺は初めてお前の心のすべてを見たような気がする。」
「ありがとうバックルパー。しかしそのためにヅウワンが魔物の手にかかってしまった。それが苦しい。」
「ヅウワンはどうしている。牢獄なのか。」
「おそらく。・・・あの日、お前達がやって来た日にゲッペルがヅウワンとその家族を連行した。我々の仲間もたくさん捕らえられてランバード城の地下牢に入れられている。おそらくヅウワンも同じ仲間と勘違いされたのだ。」
「そうか、牢はどんな待遇なのだ。」
「ひどいものだ。牢の中では連日拷問が繰り返されている。体を折り畳まれて大きな切り石を乗せられて放置されたり、無数の針の山に座らせられたりするのだ。そうやってセブ王は囚人達に憎しみを持たせようとしている。地下牢には大きな石うすがあって、いつまでも憎しみを持たない囚人はその石うすで粉々にされて処刑されるのだ。」
「ヅウワンは大丈夫だろうか。」
「分からない、奴らは何をするか分からないのだ。」
「奥さんを救うためにも、この作戦を成功させねばならんのだ。」ゲッペルが二人の話に割って入った。
「そうだった。俺達はセブ王の噴水に取り付けられている赤い玉を手に入れなければならないのだ。それも至急にだ。」
「そうよ、今パルガからその思いが届いたわ。」
エグマが自分の頭に響いてきたパルガの指令を口に出した。
「俺もだ。何か急な事態が起こったのかもしれない。」ダルカンが言った。
「『黄色いふだ』の諸君、力を貸してくれるのだな。」ゲッペルが言った。
「申すまでもないこと。」
『黄色いふだ』のアジトでは緊急の作戦会議が開かれた。どうすればセブ王の像から赤い玉をとることが出来るか。噴水の周辺に敷かれた厳重な警戒網をどう突破するか、会議はなかなか妙案を得られず、長い間続いていた。
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