のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

第 三 部  三、市街戦 (女牢二)

2014-12-18 | 小説 黄泉の国より(ファンタジー)

女牢二

 

 深い眠りの底の方から、ゆっくり意識が戻って来たとき、ぼんやりした感覚が騒がしい叫び声をとらえた。エミーは驚いて起き上がった。

 見ると、牢の入り口近くに囚人が集まって、何やら口々に言い合っているのだ。エミーは何事が起こっているのか見当もつかなかった。ぼんやりした目をこすって、エミーは囚人の騒ぎを眺めていた。囚人達の中心に誰かが倒れているようだった。

  「何があったの。」エミーは横に座っていた骸骨に訊いた。

 「拷問で痛め付けられた仲間が返されたんだよ。」骸骨は興味ない様子で答えた。

 「こんなことが毎日あるの?」

 「そうさね、珍しいこっちゃないよ。あんたも、あんな目に会いたくなかったら関わらないことだね。」

 そう言って骸骨は目を閉じた。これ以上話をする気がなさそうだった。仕方なくエミーも、黙って囚人達の騒ぎを見ているしかなかった。そのうちに倒れている囚人を数人で抱え起こし、横にしたまま皆で抱えて牢の奥の方に運び始めた。その囚人の顔を見たとき、エミーの体に激しい衝撃が起こった。

 「母さん!」

 気がついたらエミーはもう囚人達の群れの中に飛び込んでいた。拷問の痛手を受けて、ヅウワンはうめいていた。目を閉じて苦痛に耐えているようだった。哀れなヅウワンの姿を見てエミーは息を飲んだ。ヅウワンはゆっくりと囚人達に運ばれ、牢の中程にあるベッドのような平たい石の上に寝かされた。

 「おおヅウワン、しっかりしておくれ」オロオロとなすすべもなくヅウワンに取りすがっている骸骨がいた。ヅウワンの母親だった。

 「ひどいことをするもんだ。」ヅウワンを取り巻いた囚人達は、口々に骸骨兵の仕打ちに悪態をついてヅウワンを励まそうとした。

 「母さん、」エミーは横たわっているヅウワンのそばに膝をついて、そっとヅウワンの手を取った。氷よりも冷たい手だった。体には無数にムチの跡があった。無理やり肉をはぎ取られたような傷あとが至るところにあった。

 「母さん、私よ、エミーよ。」エミーは静かに呼びかけた。

 ヅウワンの目が開けられた。その目は弱々しかったが、確かにあの優しいヅウワンの目だった。

 「母さん、私が分かる?」

 「エミー、私は夢を見てるのかしら。」

 「夢じゃないわ。」

 「信じられない、どうしてあなたがこんな所にいるの。」ヅウワンは身を起こそうとした。

 「起きなくていいの。ひどい目にあったんだから。痛い?」

 「そんなことはどうでもいいのよエミー、それよりどうしてこんなところにいるの、ちゃんと説明してちょうだい。」ヅウワンは顔をしかめて身を起こした。その後ろで真っ白な骸骨が不安そうにじっとエミーとヅウワンを見つめていた。

 「母さん、」エミーは起き上がったヅウワンの胸に飛び込んで泣き始めた。

 「さあ、もう泣くのはおよし。あなたはまだ暖かいわ。また生きたままこの世界に来たの。」

 「母さん、私、・・・」エミーは込み上げてくる嗚咽のために言葉をつなぐことが出来なかった。

  「エミー、私のかわいいエミー、」ヅウワンの目も涙に濡れていた。

  しばらく二人は抱き合ったまま動かなかった。やがてヅウワンが身を離してエミーをしみじみと見た。

 「あのとき、あなたもバックルも殺されてしまったんじゃないかと思ったわ。槍で突き刺されて、煙のように消えてしまったんだもの。それから母さん達は捕まえられて何度もあなた達の事を聞かれたの。母さんはこんなめにあったけれど、痛め付けられればそれだけあなた達は生きているんだって思えて、頑張れたのよ。」ヅウワンは静かに語った。

 「私はいつまでも母さんの重荷なのね。」

 「重荷なんかじゃないわ。あなたは私の命なのよ。」

 「母さん、」

 「分かってくれたらエミー、あなたがここにいる訳をちゃんと話してちょうだい。」 

 「とても長い話なの。バックもこの国に来ているのよ。」

 「そうだったの、やっぱりあの時のあなた達は夢ではなかったのね。でも一体あなた達は何をしに来たの。」ヅウワンは涙に濡れた目でエミーを見た。

 エミーはヅウワンの質問に少しずつ答えていった。そしてセブ王の噴水のことから、パルマとパルガの事、王子のことなど、今までのいきさつを順を追って話し始めた。いつの間にかヅウワンとエミーの周りには、たくさんの囚人達が集まって来ていた。エミーはその話をヅウワンだけでなく、集まったたくさんの囚人達にも聞かせるように、言葉を選びながら語るのだった。

 囚人達はエミーの話しに聞き入った。そして魔物を退治して世界を救おうとするパルマとパルガの話しになったときには、集まった囚人達のほとんどが両手を合わせて祈りを捧げるのだった。囚人達にとって、パルマとパルガは救世主そのものだったのだ。

 「有り難い事じゃ。」完全に白骨化した骸骨が手を合わせて言った。

  「それであなたはカルパコのせいで捕まってここに入れられたというのね。」

 「そうなの。でも、どうしてカルパコがあんなに変わってしまったのか、私には分からないの。」

 「カルパコは簡単に悪魔に魂を売るような子じゃないわ。」

 「私もそう思うの。でもカルパコは王子様に短刀を押し付けて骸骨兵に渡したのよ。王子様は今、向こうの牢に入れられているわ。ジルと一緒にね。」

 「そうだったの。」

 「ねえ、母さんはどう思う、カルパコのこと。」

 「カルパコはあなたを守るために、そんなことをしたのかもしれないわ。」

 「私を守るために?」

 「そう、いけない事だと分かっていても、エミーの事を思うとどうすることも出来なかったのだと思うわ。」

 「・・・私、どうすればいい?」

 「あなたも、カルパコを守るために生きなけりゃね。好きなんでしょう。彼のこと。」

 「うん。」

 エミーの心はヅウワンの言葉でいくらか元気を取り戻したようだった。しかしヅウワンの話が理解出来た訳ではなかった。ただエミーは、ヅウワンの言葉からやってくる、包み込むような優しさを感じていたのだ。ヅウワンが死んでから、エミーは母のそんな愛情を忘れていた。様々な事件に巻き込まれて生活が荒々しく変転した。あげくの果てにはカルパコに裏切られ、骸骨兵に捕まって恐ろしい地下牢に入れられてしまった。そんなエミーにとって、ヅウワンの優しさは、闇の中で光を与えられたような救いだったのだ。

  エミーはしばらく自分の置かれた状況を忘れて、心に安らぎを感じていた。

 

 

 

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