(1)
北斗と言えば、夜空に並んでいる七つ星。でも、ジイジにとっては可愛い小さな赤ちゃんのことなのです。
白いおくるみからちょこんと顔をのぞかせているその目を見た時、ジイジは初めて北斗と出逢ったのでした。
それは深い穴からこわごわと外を眺めているつぶらな瞳でした。怖がらなくていいよ。
ジイジは目でそう言いながら北斗の額にそっと触りました。
北斗の真っ黒な目と出会った時、ジイジは天の川で星の赤ちゃんを助けたときのことを思い出しました。
涙のプールから今しがたすくい上げてきたような眼を眺めていると、
あの時、ブラックホールに呑み込まれそうになっていた星の赤ちゃんの不安そうな目を、つい連想してしまうのです。
「安心して出ておいで、ここは明るくて楽しいところだよ。」
ジイジが言うと、
「生まれたばかりなのにそんなこと言っても、分かりませんよ。」
バアバが面白そうに笑いながら言いました。
「宇宙語は赤ちゃんの言葉なんだ。わかるんだよ。」
「はいはい、変なジイジですね。」
今度はバアバが北斗に話しかけました。
すると北斗が小さな手を握りしめて泣き始めました。
小さなベットの上で、それはそれは小さな泣き声でした。
そうなんです。北斗は三週間も早く生まれてきたのでした。
まだとても小さくて、ジイジがだっこ出来たときは、頭が手のひらに隠れるほどで触ると壊れそうだったのです。
体は、抱いた腕の肘まで足が届いてこないのでした。
「おっぱいの時間だわ。」
北斗のお母さんがすぐにジイジの腕から北斗を大事に抱きかかえて行きました。
2時間おきにおっぱいをという先生の言いつけを守って、お母さんは寝る間もありません。
おっぱいを飲む力がとっても弱くて、やっと飲み終えたらもう次の授乳時間がやってきます。
懸命に一人頑張っているお母さん。
でもそんなお母さんをしっかり支えるお父さんがいて、ジイジは安心していつもぐっすり眠るのです。
その夜、ジイジは子供のころの夢を見ました。
「ゴロニャーン」
鳴声を上げて銀色の猫が空を飛んでいきます。
それはスケール号と呼ばれるネコ型の宇宙船でした。
そしてジイジはその艦長さんだったのです。
スケール号はどんな大きな世界にもどんな小さな世界にも飛んで行けるのです。
それはいくつもの試練を乗り越えて行く冒険の宇宙旅行でした。
ところがそのスケール号の冒険は誰にも信じてもらえなかったのです。
艦長だったことを自慢したくても、誰も本気で聴いてくれませんでした。
ジイジになった今もそれは変わりません。
それでもジイジは、あれは夢だったのかなあと思ったことは一度もありませんでした。
ただ誰にもその話をしなくなったのは事実でした。
でもそれは信じてもらえないのが嫌だったのではないのです。
信じてもらえないのが当たり前だと思うようになったのです。
それにジイジはスケール号と仲間たちのことを大切にしたかったからなのです。
本当のことは、ジイジの中で今も生きているのです。
いつかまた、スケール号がやってくる。心の波動でそれが分かるのです。
(つづく)
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