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長い間私は橋の上にいた。通りかかる車はみな私を不思議そうに見やって通り過ぎた。他に人影はなかた。この時間に私の姿は奇異に思えるのだろう、辺りは寂として暗闇が圧力のように覆いかぶさってきた。せせらぎだけが私と共にあって、そっと囁くように聞こえている。
その囁きが忘れかけていた里依子への想いを呼び起こし、またそれが大きな胸のつかえとなって私を苦しめ始めた。
急に気温が下がり始めているようだった。私は身を震わせてブレザーの胸元を合わせた。そしてスケッチブックを開いた。
私は心に湧き上がってくる激しい気持ちをなんとかスケッチに留めようとした。それはふと有島武郎の『生まれいずる悩み』を思わせ、美術館での里依子との会話と、透き通る笑顔を思い出させた。
私はそんな思いをふるい落としてスケッチブックに向かった。どうにかしてこの千歳川を自分のものにしたかった。ペンを取り出し夢中でそれを写し取ろうとした。
しかし私の思う千歳川は私をなぎ倒すほどの力強い線が必要だった。それをつかみ取ろうと必死でペンを動かしたが、逸る気持ちが私の技量を越えて先走り、悔しい思いばかりを募らせた。
私の描きたいのは生き生きとして清らかな力強い姿だった。しかし私はどうしても静かな、死んだような千歳川しか描けなかった。私はそんな自分に腹を立て、八つ当たりして桟橋をこぶしで殴った。そしてそのあとで淋しい自分を発見するのだ。
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