のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

セリナの物語38

2007-09-16 | 小説 セリナ(短編)

どうするか・・・
私は会社を退けてからも思い迷って家路についた。
習慣で電車に乗り、意識しないまま駅を出た。
夢遊病のように自転車に乗り、いつの間にか国道を横切る地下道に差し掛かった。
地下道に開く暗い入り口を見たとたん、私は雷に打たれたようなしびれを覚えた。
女物の靴が、まるでそこに人が立っているように置かれたままもう一月以上経っているのだ。
そんなバカなと思いながら、あれは自分にしか見えていないのではないのかという考えを払拭できずに日が重なり、いまやその靴のとりこになってしまっていると言わざるを得ない。
私は霊というようなものを信じないが、しかしそれでも、地下道の靴は私の意識から離れずますます強くなって、そこを通るたびに背筋の凍る思いを繰り返しているのだ。
A子のことで一杯の頭を、かみそりの刃のような切り口で一瞬のうちに切り裂くほどに靴の恐怖が大きくなっているのを認めない訳にはいかなかった。

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