
窓のない部屋にローソクが灯っている。そのローソクが机を照らし、その周りに座っている人の姿を浮かび上がらせている。一人は横に向かってでっぷりと太った男であり、他に年格好のよく似た老婆が二人座っていた。その部屋の奥に床から三段ほどの階段があり、そこを登ると方形の舞台のような平台が置かれていた。その平台の四隅に祭壇のようなものが見えた。
しかし机のローソクの光では定かにはその全容を見渡すことは出来ず、その半分は闇に沈んでいた。
「それで、やはり現れたのか。」
「はい、二人組の男でした。」
「おそらく、金で使われたのじゃろう。」
「多分この町のチンピラでしょう。あまり賢いやり口じゃないのを見ても分かります。」
「それにしても、中身を見て、さぞかしがっかりしているだろうな。」
「どこにでもある子供の本じゃからの。」
「しかし気をつけねばなりませんね。奴らが現れたということは、ここに疑いを持ったということですから。」
「その後の動きはどうだな。」
「今のところ何も。とりあえずあの偽物が役に立ったようです。」
「それはよかった。」
「して、子供達に怪我はなかったのじゃな。」
「はい。エミーって子が突き倒されて転んだだけですから。」
「とにかく、思い通りに事は運んだということじゃな。」
「子供達には、ユングからバックルパーへの預かり物と言っておきました。エミーには少し可哀想な気がしますが。」
「仕方なかろう。いずれ分かることじゃ。」
「とにかく今、我らの動きを知られるのはまずいのじゃ。」
「そうですね。」
「慎重に事を運ばねばの。」
「しかし、これよりも前に、カルパコという少年が危うく馬車にかれそうになったそうです。これがそのときのお札です。」でっぷりと太った男が黄色いお札を出して机の上に置いた。お札は何かに押し潰されたようにしわになり、ぷつぷつと小さな穴が空いていた。
「そして、これがユングが吐血して死んだ時のものです。」
半分ちぎれたお札がその横に並べられた。
「魔力が強くなっているのかも知れぬ。どうだ、パルガ」
「黄泉の国が騒がしくなっている。苦悩が渦巻いている。今までにないことじゃ。セブ王の執着はますます強くなっているようじゃの。姉様。」
「慎重に、しかも急がねばなるまい。このままではこの国まで魔力の支配下に落ちてしまうやもしれぬ。」
「黄泉の国のなかに、改革を求める気配もあるのではないですか。」
「いくらかはの。」
「ユングもまた、その力になるやも知れぬ。」
「とにかく、今はあの四人の子供を大切に育てねばの。」
「黄泉の国との橋渡しが出来るのはあの子共達しかいないのじゃからの。頼んだぞ、ジル。」
「分かりました。」
だれが消したのか、フッとローソクの炎が消えた。窓のない部屋は完全な闇に溶け込んだ。
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