森田沙伊の絵の前で里依子は、この絵は前に送った絵ハガキの画家だということを私に伝えた。私はそれをよく覚えていた。
里依子から送られてきた絵ハガキの中の1枚が、森田沙伊の絵で赤い服を着せられた人形を描いたものであった。
その絵ハガキを見た瞬間、内側からうごめくような生々しい生命力を感じたのであったが、今目にしている絵もまた、絵柄や色調は全く違っていたにもかかわらず同じ感覚を私に呼び起こさせた。
画家が真実に近付けば近付くほど、どんなに異なった絵を描いてもその画家の描いた絵だということがわかるものだ。それは絵がそれだけ精神的なものだということを表している。どんな絵を描こうが、真実の真ん中を描けばそれは画家そのものの姿となる。
逆にいえば、どんな絵を描いてもそれが誰の絵であるか一目でわかる絵は、その画家の最高の作品であるといえるのだ。
森田沙伊の絵が本物であるという思いを、私はそんな風に話して里依子に説明した。里依子は嬉しそうにして絵に顔を近づけた。里依子の目には森田沙伊のグリーンの絵だけが映っている。その横顔が私には切ないほど愛おしく思えるのだった。
HPのしてんてん
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