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第 二 部  六、新月の夜  (黄泉の国へ1 )

2014-12-10 | 小説 黄泉の国より(ファンタジー)

黄泉の国へ

 

 「我らにまだ話していない事があるのではないか。」パルガが王子に訊いた。

  パルガの質問に王子は息を飲み込んだ。皆が一斉に王子の方を見た。皆の視線を受けて王子はしばらく無言だった。

 四十人はゆうに座れる、マホガニーの長いテーブルの据えられた応接間に一行は通されたが、パルガが望んで、王宮の小さな部屋に移った。その部屋に十人の人間が車座に座っていた。王子と宰相ゲッペルが加わっているのだ。その車座を囲むようにして、部屋の四隅にローソクが燃えていた。パルガが結界を張ったのだ。その結界の中にまで魔物の意識は及んで来ない。ローソクの炎は忙しく踊っていた。

 王子はこの城に起こっている奇怪な現象をパルガに説明させ、その上で、王に取り付いた魔物と戦う方法を自らの力で見いだそうと考えていた。魔物と戦うのは王家の力において他にないと思っていた。ところがパルガと弟子達は、その魔物と戦うためにやって来たというのだ。王子は意外な展開にしばらくとまどっていた。

 王子は、はあくまでこれは王家の問題と考えていたのだ。何より王家の秘密を表に出す事は出来なかった。王家の秘密に触れずに、魔物さえ退治出来ればよかったのだ。

 ところが、パルガの話を聞き進むうちに、この問題はそう簡単でないことが分かって来た。そして何よりこの城の地下で、今夜黄泉の国への扉が開くという話は王子には衝撃的だった。

 黄泉の国には始祖セブ王が君臨する王国がある。そのセブ王に取り付いた魔物は世界を死の国に変えようとしている。それを止めるために黄泉の国にわたり、戦わねばならない。そのために王子とゲッペルの力が必要だとパルマが言った。この話が本当なら、問題は王家の事だけには止まらないのだ。王子は魔物のその大きさに慄然とした。

 パルマとパルガの言うことにゲッペルは信じがたい顔をしていたが、王子の方は王家の秘密に対する答えがそこにあるように思えて、食い入るように二人を見、神経を集中させて二人の話を聞いていたのだ。そんなときの、突然のパルガの問いかけだった。王子は答えに窮していた。

 「ヴォウヅンクロウゾという名を知っておろう。」

 「なぜそれを、」王子はたじろいだ。

 「この子達が調べたのじゃ。」パルガがエミー達を見て言った。

 「何だと、それは本当か。」

 「この子達はこの国の古文書を読むことが出来るのじゃ。そしてその文献にヴォウヅンクロウゾの名を見つけた。」

 「古文書が読めるだと。あれは封印された書だ、その文字はこの私でさえ読むことは出来ぬ。しかも古文書は誰も見ることが出来ぬはず。それを、信じられぬ。」

 「王子よ、世の中は広いのじゃ。王家がすべてという考えは捨てねばならぬ。」

 「口が過ぎるのではないのか。」ゲッペルがむっとした口調で言った。

 「真実を言うておるのじゃ。それが分からぬ人間なら、この話、失敗と見なければなるまいの。王子の力を得なければ、魔物を封じ込める事は難しいじゃろう。」

 「そちの言うことはよく分かった。」

 「ならば、すべてを話してもらいたい。」パルマが言った。

 「しかしそれでは、王家の恥をさらすことになるのだ。」

 「王子よ、我らは王家の恥を聞きたいというのではないのじゃ。知りたいのはヴォウヅンクロウゾの真の姿なのだよ。」

 その時ダルカンが口を挟んだ。

 「ヴォウヅンクロウゾは、セブ王と契約を結んだのです。砂漠の民を救う代わりに、王の体の中にヴォウヅンクロウゾを受け入れるという契約です。そのときヴォウヅンクロウゾは世界を生の国と死の国に分けてしまいました。それを青い玉と赤い玉に封じ込めたのです。もともとこの国のセブ王の噴水にはその青い玉が取り付けられていたはずですが、何者かが持ち去ってしまったと考えられます。」ダルカンの声は緊張していた。

 「確かにその名は密かに、王家だけにいい伝えられて来た。その事実を完全に封印するために国の文字さえも変えたと聞いたが、しかしその文字を読むものが現れようとは。」

 「ヴォウヅンクロウゾと王家にはどのような関わりがあるのじゃ。」パルガが重ねて訊いた。王子は観念したように口を開いた。

  「王家の秘密とは、次期王と定められたものだけが王から直接口伝される、いい伝えと、それに基づく儀式のことだ。」

 「では、王子はすでに口伝を受けたのだな。」

 「そうだ。」

 「儀式というのは何なのじゃ。」

 「王座を継ぐために、どうしても行わなければならないといい伝えられてきたものだ。王からそれを聞かされたとき、私はおぞましさで体が凍り付くようだった。私はそれを受け入れなかった。私は魔物と戦う決心をしたのだ。しかしそのために城は一層騒がしくなって来ているのだ。ヴォウヅンクロウゾが動き始めたのかもしれぬ。」

 「詳しく教えてはもらえぬか。」

 「確かに始祖王は契りを結んで自分の体にヴォウヅンクロウゾを迎え入れた。契約は厳密に守らねばならなかった。しかしその厳密さが逆にヴォウヅンクロウゾを縛り付けてしまったのではないかと私は考えている。」

 「それはどういうことなのじゃ。」パルマが身を乗り出して訊いた。

 「つまり、契約のためにヴォウヅンクロウゾは、始祖王以外の体には入れなくなったのではないか、おそらくそのことが王家に長く続いて来たいい伝えと儀式を生み出したのではないかと思うのだ。」

 「よく分からぬが。」

 「順を追って話すしかない。そのまま聞いてもらいたい。」王子はそう言ってから、長い、身の毛のよだつような話を始めた。

 ランバード王国はヴォウヅンクロウゾの力によって平和で豊かな国土が約束されていた。そしてこの国の王になるためには、そのヴォウヅンクロウゾのために、ある儀式を取り行わなければならないことになっていた。もしその儀式が行われなければ、国は乱れ国土は砂漠と化し、必ず国は滅ぶといい伝えられていた。ヴォウヅンクロウゾの力は計り知れないもので、それに背く事は許されない事だったのだ。

 その、ヴォウヅンクロウゾのために執り行わなければならない儀式というのは、国の平安を得る代わりに、王自らが犠牲になることだった。王の血によってランバード王国は永遠の平和が約束されるのだ。

  しかしこの事は極秘中の極秘なのだ。王は妻子にすらこの事を話してはならないのだ。次期王が定まるまで、王はこのことを自分の胸の中だけに収めておかねばならない。それが王家の秘密を守るために課せられた重要な王としての努めなのだ。すでに私は今それを破ろうとしている。

 ところで、この儀式は王と王子の二人だけで行われる。言わば王権の引き継ぎの意味もあるのだが、儀式が始まると、王宮の中は王と王子の二人だけになる。誰一人として、王宮に近づくことは許されないのだ。

 次期王を定めると、王はその者にセブの称号を与え、そして初めて、次の王となる者に王家の秘密を語る。そして王はその秘密を受け入れるように促すのだ。秘密を受け入れる事が王となる最後の条件だと言ってな。その秘密を歴代の王子が受け入れて来たのは、おそらくヴォウヅンクロウゾが王子の心を惑わして、人としての感覚を失わせてしまうからなのかも知れぬ。私も危うくそうなる所だったが、ここにいるエミーの母親の歌の力で良識を失わずにすんだのだ。

 王が王家の秘密を語ると、儀式は間近だということを意味する。いや、儀式は王がそれを語った時から始まるのだ。それから二人はやがてくる『その日』を待つのだ。『その日』は満月の夜に限られていた。しかしそれがいつなのか、その時期は王の口から告げられることになっていた。ヴォウヅンクロウゾの力が働いて、王の心にその日がいつであるのかが知らされる。すると王は、ヴォウヅンクロウゾの名の下に、自らが生けにえとなる日を指定するのだ。

 

     

        

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