(9)-2
「逆だ、スケール号!大きくなるんだ。原子より大きく!」
博士は自分の間違いを隠すように大きな声で命令しました。
「ぐぎゃにゃーン」
スケール号も必死で応えます。窓に見える黄金の星が点のようになり、銀河の中に紛れてしまいました。
するとスケール号の背中に刺さっていた金の槍はするりと抜け落ち、闇の中に消えてしまいました。
それと同時に凍てついた体から霜が消えたのです。
「大丈夫かスケール号。」
「フンにゃー」
スケール号はぎこちなく体を動かしました。致命的な被害は免れたようです。
その間に、ぴょんたは艦長の背中に万能絆創膏を貼って治療を終えていました。
艦長はスヤスヤとぴょんたの胸の中で眠っています。
「スケール号の傷はどうだ、船外に出て修理できそうか。」
博士がぴょんたに聞きました。
「それが博士、おかしなことなんでヤすが、もうだれかが背中に絆創膏を貼ったみたいでヤす。」
「何だって?どういうことだ??」
「これを見てほしいでヤす。」
もこりんに言われるままモニターを見て全員がびっくりしました。
槍が刺さっていたスケール号の背中に白い絆創膏がばってんに貼られていたのです。
「誰がはってくれたんダすか?」
「スケール号が自分で貼ったのでヤすか?」
「そんな馬鹿な。でも、これでスケール号の傷も治るでしょう。誰かが助けてくれたんですね。神様でしょうか。」
深く考えないのが隊員たちのいいところです。
迫っていた危機が去ってホッとすると、スケール号の中はお祝いムードに変ってしまいました。
もこりんとぐうすかが抱き合ってピョンピョンしているのです。
一人博士だけが額にしわを寄せて考え込んでいました。
博士はぴょんたにだっこされて眠っている北斗艦長に目をやっているのです。
博士はぴょんたから北斗を抱き取ると、そっと背中に手を当ててみました。柔らかくて暖かい感触が伝わってきます。
ぴょんたの治療のおかげです。博士はあらためてぴょんたにお礼を言いました。その時博士の頭にひらめいたものがありました。
「そうだったのか。」
博士は北斗の寝顔を見ていて、ひとり驚いたように言いました。
「どうしたのですか?博士。」
ぴょんたも艦長の寝姿を観察しながら博士のつぶやきを聞いたのです。
そんな二人に気が付いて、もこりんもぐうすかも艦長の周りに集まってきました。
「艦長は大丈夫でヤすか?」
「いい顔で寝ているダすね。きっと大丈夫ダすよ。」
「スケール号に絆創膏を貼ってあげたのは艦長なんだよ。」
博士が艦長に眼を向けて言いました。
「ええっ、それは無いでしょう博士。艦長はその間ずっと私が抱いていましたよ。」
ぴょんたが反論しました。
「どうやって外に出たのでヤす?」
「それより、艦長は、はいはいだって出来ないダすからね。」
「艦長がどうして怪我をしたのか分かるかい。スケール号と同じ場所だ。」
「そう言えばそうダす。考えられない怪我ダすなぁ。」
「確かスケール号が槍を受けて、同時に艦長も泣き出したンでヤす。」
「それも同じ背中・・・博士、これってもしかしたら・・」
「おそらくね。艦長とスケール号は宇宙語でつながっている。そのつながりがだんだん強くなっているのだ。」
「ということは、どういうことダすか?」
「艦長とスケール号のつながりが強くなってきて一体化が起こったんだ。」
「一体化でヤすか・・・??」
「だからもこりん、スケール号に起こったことが艦長の体にも表れてしまったんだよ。」
「その通りだ、ぴょんた。」
「スケール号の痛みを、自分の身で本当に感じて体験しているということダすか?」
「ぐうすかは詩人だね。きっとそれが正解だろう。」
「すごいですね。」
「だから艦長は、ぴょんたに治療してもらったことをスケール号にもしてあげたのだよ。」
「そうか、艦長があの絆創膏をスケール号に貼って上げたのですね。」
「・・・・・」
しばらくみんなは言葉が出ませんでした。
博士はそっと動いて、艦長を揺りかごの中に寝かせてやりました。
そして自分の頭に乗っていた帽子を丁寧に艦長の頭に被せたのです。
*****************************************************************
(ちょっと一休み)
最後の詰めにてこずっています。
何故こんなにてこずるのか
そう思って、気付いたのが
そこが今描いている作品のすべてが集約する場所だったということ
この制作過程の空白部分のことです。
今まで流れ作業のように描いてきた「求道」「誕生」「死」というテーマが
すべてここでぶつかるということなのです。
スペースの関係でそのテーマを描いた絵を上段に置けなくて、イメージが取れないのもあります。
しかし今回、頭で考えるより意識の方が先行して行き詰ってしまいました。
先が見えません
でも自分のレベルが上がったと感じたのはこの時でした。
見えないことがちっとも不安ではないことに気付いたのです。
とりあえず動けるところだけやろうと、気流だけに意識を集中して描いていると
その意識が突然はじけたのです。
「求道」「誕生」「死」すべてを引き受ける空間が見えました。
それは決してその瞬間まで存在しなかった。
だから私の思考ではない、外からやって来る意識の感覚なのかもしれません。
たぶん龍の一部が来ると思っていた空間に、突然天体がやってきたのです。
その気付きは空体の実感ではないのかと思いながら。
「宇宙捨てーション」
しかしこちらの方が賢いのじゃないかと思わず目を見張りました。
だってほら、
桂蓮様のコメントから察すると、宇宙を捨てて人間に戻るのか、宇宙を受け入れてブラックホールに飲み込まれるのか、それが問題だ。
ハムレットのセリフ宇宙版です^ね^
宇宙ステーションは人工物ですから宇宙捨ては人間を軸足にしたものですから当然死はやがて訪れますね。
他方ブラックホールは宇宙そのもので、宇宙を軸足にして立てば、この世からなくなる死は存在しないですね。死はつまり解放。
ハムレット「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」
のしてんてん「それ二者択一じゃん、三つ目の選択もあるよハムレット」
なんだか頭が散漫に広がりました。
ごめんなさい。
コメントありがとうございま^す^
>空間に浮いていた時に
宇宙ステーションに戻れる紐を見つけた、感じですかね。<
その文はのしてんてんさんの文を読んで
私が感じたことです。
宇宙ステーションに戻れる紐を見つけた、感じですかね。
私はブラックホールの中に吸い込まれたいです。
空間が無い空間に
全く空間が無い空間に
いたいなーみたいな。
死は、開放だと思っています。
自分への開放
その日が来るまで
自分としていられなければならない、宿命を負いながら。
ブラックホールは
こんな自分を完全に、
完璧に
受け容れるくれるでしょうね。