私は床に落ちている黄色のチョークを取り上げ、黒板に自分の名前を書いてみた。
シュカ、シュカ、シュカ、黒板とチョークの擦れる音が部屋いっぱいに溢れて私は思わず全身に震えを覚えた。
私は今まで自分の表現をこれほど増幅されて感じたことがあっただろうか。一本線を引くと、その音が私の心を突き抜けて部屋を満たし、私はなんだかこの建物そのものになってしまったように感じ、その黒板に書く自分の名前と同時に私はこの建物と同じ大きさになって、何やら小樽の港に向かって、いやもっと抽象的な人々の心に向かって自分を主張しているような錯覚に陥るのだった。それは決して誇張ではなく、それほどに鋭い音をこのチョークは放ち、私の心をそのように刺激し打ちのめすだけの深い、そして重々しいものを持っていた。この部屋には合わないような新しい黒板であったけれども、そこから醸し出されたチョークの音は実にこの部屋の眠りについた歴史を揺り起こす魔法のような働きをしているのだ。
私の心は訳もなく満たされ、大きな幸せを腹の底に蓄えた。
何やらいつまでもこのまま、こうしていたいという思いが消えなかったが、しかし切りもないので私はようやくその部屋を後にした。
HPのしてんてん
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます