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外にはまばゆいばかりの太陽があって、薄暗がりからやってきたやってきた私の体はその光線を受けて朗々と萌え上がるばかりに膨らみ、意識は急激に現実に向かって流れ始めた。
キャンパスから眼下に小樽港が青く霞んで広がっていた。その眺めは伊藤整が何度も表現している通りの感動的な美しさがあった。
その光景に視線を漂わせながら、港に広がる小樽の街を見たとき、一瞬だったがあの町のどこかに里依子がいるのだと私は思った。すると一層小樽の街が愛くるしく見えるのだった。
その小樽の街から私の立っているところまで目を引いてくると、輝く雪景色がことのほか暖かく感じられる。
麓から緩やかに上ってくる坂道の、その途中にあるパン屋に寄って何気なく女主人にここの生活を聞いた時、彼女は朗らかにきっぱりと小樽はいい街だと言った。私は頷きながら、このように明朗に自分の生活を誇れる女主人を逞しいと思ったのだった。
この美しい風景は、こうした土着の人々の力強い生活に裏打ちされているのかも知れなかった。
この坂道を段々に彩っている家々はいかにも白い雪に合い、鋭く響き渡って私の網膜を忙しく刺激する。それはあたかもこの冬のために家が建てられ、色彩されているようにも思えるのだった。
いずれにせよこうしたカラフルな家並みは、厳しい冬の生活の中で生み出された人々の希望の色に違いなかった。
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