大きくならないテレジン/兵士のハーモニカ/ロダーリ童話集/関口英子・訳/岩波少年文庫/2012年
第二次世界大戦中、イタリアのレジスタンス運動に参加したロダーリの物語でしかできない世界。
人間のやさしさと力を感じさせてくれます。
父親が戦争でなくなり、母とおばあさん、小さい弟と残されたテレジンという女の子。テレジンは間違いだらけの世の中と関わりたくないと、大きくなることを拒否するようになります。
友達が美しく成長し、弟もテレジンの肩ぐらいまでなっても、テレジンは少しも大きくなりません。
「結婚できないよ」「恋もできないよ」「ハイヒールだってはけないよ」といわれても、小さいままでいようという決心をゆるがすような理由はありませんでした。
しかし、母親が重い病気で入院し、おばあさんが泉から水を運ぶのが無理になると、おばあさんの手伝いをするため、少しだけ大きくなるのを決心します。
軽々と水のはいったおけを運ぶようになったテレジンは、今度は、おばあさんが雌牛にほし草をやるのが無理になって、干し草を熊手で持ち上げようとしますが、熊手が鉛のように重く、干し草を運ぶのができません。
おばあちゃんのかわりに、牛の世話をしようと、ほんの少しだけ大きくなるようにします。
しばらくすると、おばあさんが亡くなり、まだ退院できないお母さんのかわりに、学校に行く弟の面倒をみ、買い物、お昼ご飯の支度、掃除、牛と鶏の世話、畑を耕すと、かよわい力ではどうにもやりきれない量の仕事が山積でした。
もう少し、大きくなったテレジンは、自分のために大きくなったわけじゃないと考え直します。
病気がよくなったお母さんが病院からもどってきますが、お母さんにまず元気になってもらおうとお母さんの分まで家事をするテレジン。
やがて母親が元気になり、自由な時間ができると、テレジンは一人暮らしのおばあさんの手伝いをし、村の人たちからあれこれたのまれると、いつだって喜んで引き受けます。
ある日、武装した山賊が村にあらわれ、金貨や宝石を要求します。
テレジンは、力をあわせれば山賊はこわくはないはずと男たちを説得しますが誰も立ち上がろうとしません。
業をにやしたテレジンは鏡の前で、巨人になるよう願います。すると煙突の高さまで大きくなります。
山賊は巨人をみると、銃を捨て一目散に逃げていきます。しかテレジンは山賊をつかまえ、警官に引き渡します。
巨人になるなんてやりすぎねと考えたテレジンでしたが・・・・。
テレジンが大きくなったのは、自分のためではありませんでした。
成長を止めたり、大きくなったりとまさにファンタジーの世界ですが、じつにリアリテイを感じさせてくれます。
最後に、世の中のまちがいを正そうとたたかう人は、ふつうの人でも巨人なみの力を発揮できるとあります。