どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

はじめての旅

2016年01月27日 | 絵本(日本)
はじめての旅  

           はじめての旅/文・絵:木下 晋/福音館書店/2013年初版

 

 結婚をして子供もいるお母さんが、火事をきっかけに夫婦仲が悪くなって、家をでてしまいます。
 一人ぼっちで父親の帰りをまつぼく。
 6歳になったある日、父親の留守に、お母さんがやってきて
 「いっしょに出かけようか」といます。
 お母ちゃんと一緒にいられるのがうれしくて、ぼくは「うん」と答えます。

 線路の上をあるき、ときには野宿し、お母さんは町の食堂で皿洗いの仕事をして、旅を続けます。

 お母さんが連れていってくれたのは、小さな墓地でした。
 「むかし、好きなひとがいたの。そのひとは若くして死んじゃった。かわいそうなひとだった」とつぶやくお母ちゃん。

 お母ちゃんにどんな思いがあったかわけがわからないけど、ぼくは墓石にむかって手をあわせます。

 ずっとむかしと冒頭にあります。なにも語っていないのですが、この墓地に眠っているのは、戦争で死んだ初恋のひとだったのかもしれません。

 10Bから10Hまでの鉛筆で22段階の濃淡を使い分けられて描かれたというこの絵本ですが、お母さんの手、白髪の目立つ髪、顔にきざまれた表情が印象的で、大きくえがかれたユリの花も心に残ります。