はじめての旅/文・絵:木下 晋/福音館書店/2013年初版
結婚をして子供もいるお母さんが、火事をきっかけに夫婦仲が悪くなって、家をでてしまいます。
一人ぼっちで父親の帰りをまつぼく。
6歳になったある日、父親の留守に、お母さんがやってきて
「いっしょに出かけようか」といます。
お母ちゃんと一緒にいられるのがうれしくて、ぼくは「うん」と答えます。
線路の上をあるき、ときには野宿し、お母さんは町の食堂で皿洗いの仕事をして、旅を続けます。
お母さんが連れていってくれたのは、小さな墓地でした。
「むかし、好きなひとがいたの。そのひとは若くして死んじゃった。かわいそうなひとだった」とつぶやくお母ちゃん。
お母ちゃんにどんな思いがあったかわけがわからないけど、ぼくは墓石にむかって手をあわせます。
ずっとむかしと冒頭にあります。なにも語っていないのですが、この墓地に眠っているのは、戦争で死んだ初恋のひとだったのかもしれません。
10Bから10Hまでの鉛筆で22段階の濃淡を使い分けられて描かれたというこの絵本ですが、お母さんの手、白髪の目立つ髪、顔にきざまれた表情が印象的で、大きくえがかれたユリの花も心に残ります。