温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

箱根湯本温泉 吉池旅館(日帰り入浴)

2021年07月16日 | 神奈川県
(2020年9月訪問)

「名物に旨い物なし」という言葉に反し、有名温泉地には名湯が多いのですが、必ずしも全部が名湯というわけではなく、そもそも施設数が多く、お湯を大切にしていない施設も存在するため、きちんと狙いを定めて訪問しないとハズレに遭遇してしまいます。このため温泉についても「名物に旨い物なし」的な印象が生まれてしまいがちです。

関東屈指の温泉観光地である箱根の箱根湯本には、皆様ご存じの通り、老舗旅館や大規模ホテルまで、多種多様の温泉施設が営業していますが、この箱根湯本も施設数の多さ故、素晴らしいお湯に出会えるか否かは、事前の下調べがモノを言う典型的な有名温泉地と言えましょう。私がまだ温泉に対する造詣が深くなかった学生時代、箱根湯本で何回か宿泊したことがあるのですが、その時の悪い印象が強かったため、温泉巡りをするようになってからも、箱根にはあまり興味を示しませんでした。しかし温泉マニアの先達の情報を見ているうちに箱根でも素晴らしいお湯に出会えることがわかり、その後は足繫く数え切れないほど箱根へ通っております。

さて、今回取り上げるのは箱根湯本の有名旅館「吉池旅館」です。東京の下町にお住まいの方ならば、吉池と言えば御徒町を連想するかと思いますが、あの吉池が箱根で旅館を経営しているのです。昭和の東京で生まれた私にとって、吉池と言えば御徒町駅前のゴチャっとした食料品店を思い浮かべますし、また同じく御徒町には同系列の古いビジネスホテルもあって、思いっきり昭和な商いをする古いイメージがあるのですが、後述するように箱根の「吉池旅館」は御徒町に漂う雑多な昭和臭が全くしない、ラグジュアリー感のある旅館であり、且つ温泉を大切に扱う素晴らしい温泉施設なのです。上野(御徒町)エリアに拠点を置きながら関東の外縁部で温泉旅館を経営するという意味で、吉池と聚楽は似た者同士ですね。ついでに言及すると、吉池も聚楽も創業者が越後出身という共通点も有しています。


箱根湯本の土産物商店街から「湯本橋」で早川を渡って温泉場の方へ入り、しばらく歩くとすぐにたどり着きます。
威風堂々とした構えのこの旅館は昭和16年創業の大きな老舗旅館で、元々は三菱財閥岩崎家の別荘だった土地を旅館にしたもの。1万坪の敷地には回遊式の庭園が設えられ、園内には須雲川から水を引いてせせらぎが作られ、また大きな池ではたくさんの鯉が泳いでいます。


立派なエントランスの前には、御徒町の本店と同じ字体で「吉池」と書かれた看板が立っています。余計な知識が無けりゃこの看板に引っかかることは無いのでしょうけど、私にとってこの字体は御徒町の雑然とした街並みと直結しているため、この文字が箱根の温泉旅館を示しているという事実に対して違和感を覚えずにはいられません。ま、どうでも良いことなのですが…。


ラグジュアリ感溢れるロビーからは、岩崎家の別荘だった庭園を眺められます。このロビーにいるだけでも実に雅やかな気分です。大抵この手の立派な旅館は日帰り入浴を受け付けないのですが、「吉池旅館」はありがたいことに、日帰り入浴を積極的に受け入れています。フロントで日帰り入浴したい旨を告げ、日帰り入浴にしては少々高めの料金を支払いますと、スタッフの方から小さい紙に名前や連絡先を記入するよう求められました。コロナ対策なのでしょうか。あるいは宿帳のように日帰り入浴利用者をしっかり記録しているのでしょうか。

ロビーから奥へ伸びる廊下を歩き、2階から1フロア上がって3階へ進み、更に廊下で奥へ奥へとどんどん進んでゆくと、やがて浴場ゾーンに到達します。この廊下の長さだけでも、いかに吉池旅館の敷地が広いかを実感できるでしょう。


男女暖簾の手前には休憩兼待合の空間があり、ドリンクサービスを提供するスタンドが設けられています。またこの空間が男女別の浴場や貸切風呂、露天風呂、そして屋外プールなど各施設へつながるハブにもなっています。さらにはこの空間には温泉掘削のボーリングピットが展示されていたり・・・


当旅館の湯使いに関する説明プレートが掲示されています。この説明によれば「お風呂は全て自然流下方式かけ流し温泉」であり「新鮮な温泉を適温でお楽しみ頂く為に工夫を」施したんだそうです。またこの図によればサイフォンの原理によりお湯を屋外へ排出しているようです。循環しないかけ流しの温泉に入れるのですね。実に楽しみです。


空調が完備された脱衣室は、綺麗でよく整備されており、とても気持ちよく使えます。また意図的に薄暗くすることで落ち着いた雰囲気を演出しているようです。確かにシックで良い感じなのですが、本当に暗めなので視力弱い人にはちょっとツラいかもしれません。なお室内のロッカーは鍵付きです。


浴場内の写真は公式サイトから拝借しました。私個人の感想を老婆心ながら申し上げますと、公式サイトで紹介されているこの写真は浴場内の開放感や明るさなどが伝わりにくいので、できれば別の写真に差し替えた方が良いのではないかと思っております。
それはさておき、男湯の内湯は元々植物園だったらしく、天井が高くて観葉植物も植わっており、とっても開放感且つボタニカルな雰囲気です。洗い場は2ヶ所に分かれており、また右手には小さな洞窟風呂があります。中央に位置する主浴槽は非常に大きく、パッと見た感じですと40~50人は余裕で入れるかと思います。開放感のある空間に大きいお風呂という組み合わせは非日常を楽しむ上でとても効果的に働く要素ですね。この浴槽内には伊豆青石のような色合いのタイルが張られており、浴槽内のステップには実際に伊豆青石が採用されています。また縁には木材が用いられています。

この浴槽は途中で深くなっており、手前側は一般的な深さですが、奥は立ち湯に丁度良い深さになっています。そして最奥の岩積みから熱めの温泉が滝のように落とされ、浴槽のお湯を満たしています(このお湯は熱いので打たせ湯は厳しいかも)。この熱い湯の滝が落ちている影響か、深い立ち湯ゾーンの方が僅かに熱いように感じられたのですが、でも全体的には湯加減が均等に調整されていますので、滝以外にも浴槽内に供給口があるのでしょう。
上述で述べたように、浴槽のお湯はオーバーフローせず、槽内の穴からサイフォンの原理によって排出されています。
加温加水循環消毒の無い完全かけ流しの素晴らしいお湯です。


男湯の露天風呂は一旦着衣してホールへ戻り、別のドアから屋外へ出ることになります。綺麗で使い勝手が良かった内湯の脱衣室とは対照的に、露天の脱衣所は至ってシンプル。棚に籠が置いてあるだけです。またロッカーやドライヤーなどの備品も無いため、私は貴重日や荷物などは内湯のロッカーへ収めたままにし、露天では着替えるだけにしました。
更には、露天風呂の入浴ゾーンには洗い場も設けられていないので、あらかじめ内湯で体を綺麗に洗っておく必要があります。つまりこの露天風呂は内湯の利用を前提としているのでしょう。
旧岩崎家庭園に融合している露天の岩風呂は、一部に屋根が掛かっているものの大変開放的であり、すぐ目の前を庭園のせせらぎが流れていて、実に良い雰囲気です。時間を忘れてじっくり浸かっていたくなります。湯加減もちょうど良く、しかも完全かけながしの湯使いなんですから、文句の付けようがありません。

ちなみに、今回利用できなかった女湯は、内湯・露天とも浴槽が2つずつあり、しかも内湯は御影石と総檜の浴槽が設けられているんだとか。

さて、お湯に関するインプレッションですが、こちらの施設では6つの源泉をミックスして各浴槽へ供給しており、そのうち1つは庭園内で湧出する自家源泉(湯本第12号)なんだそうです。6源泉をあわせた合計湯量は毎分720L。その豊富な湯量を活かして全てのお風呂で完全かけ流しの湯使いを実現しています。また源泉温度が高いため、加水せずに温度調整しているそうです。お湯の見た目は無色透明ですが、含む塩化土類・食塩泉という泉質名とは裏腹に石膏感と芒硝感を有し、少々トロミや引っかかる浴感が得られます。源泉にも依りますけど、箱根湯本のお湯は循環させたり加水しちゃうと水道の沸かし湯と区別がつかなくなりますが、本来は無色透明の硫酸塩泉的な特徴を示すことが多く、こちらのお湯もそうした特徴を有する典型例といって良いでしょう。お湯の個性がはっきり表れている上、湯使いも鮮度感も良く、大変素晴らしいお風呂です。おすすめ。


ちなみに上述の休憩兼待合の空間には2室の貸切風呂が面しており、日帰り入浴でも予約なしで利用することが可能です。訪問時は1室が空いていたので、ちょっと拝見させていただきました。家族やカップル等で利用するにはちょうど良いか寧ろゆとりがある規模感で、且つとても綺麗に維持されており、当然ながらお風呂はかけ流しの温泉が供給されていま。こんな立派なお風呂も利用できるのですから有難いですね。


お風呂上りに旧岩崎家別荘の庭園を散策させていただきました。


須雲川から引水した川が庭園寧を流れ、錦鯉が悠然と泳ぐ大きな池へと流れ込んでいます。


せせらぎの音を聞きながら奥の方へ進んでゆくと、一軒の立派な木造建築があり・・・


説明によれば国の登録有形文化財「旧岩崎弥之助邸別邸和館」で、1904年(明治37年)に建築されたんだそうです。


実に素晴らしい庭園ですので、こちらへ訪問の際は是非散策してみてください。


湯本第12・72・84・89・99・112号混合泉
ナトリウム・カルシウム-塩化物泉 63.4℃ pH8.1 成分総計3212mg/kg
Na+:750mg, Ca++:339mg,
Cl-:1570mg, SO4--:347mg, HCO3-:48.8mg, CO3--:6.0mg,
H2SiO3:77.8mg, HBO2:40.4mg,
(平成25年1月9日)
加水加温循環消毒なし

神奈川県足柄下郡箱根町湯本597
0460-85-5711
ホームページ

日帰り入浴13:00~22:00(最終受付20:00)
2,250円(入湯税込み)
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
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川崎市川崎区 朝日湯源泉ゆいる

2021年07月09日 | 神奈川県
前回記事に続いて、東京界隈で開業したばかりの温泉施設を取り上げます。
今回ご紹介するのは、2021年3月にオープンした川崎市川崎区の「朝日湯源泉ゆいる」です。私は開業した同じ月の下旬に訪問しました。前回記事では「新規開業やプレオープンなどという言葉にあまり心が躍ら」ないと豪語しちゃいましたが、昨年も今年も新規開業の温泉施設を何軒も訪問していますので、なんだかんだ言って所詮はミーハーな人間なのかもしれません。


まずは尻手駅から南武線浜川崎支線に乗車します。川崎から立川を結ぶ南武線は、データイムの場合で1時間に各停6本と快速2本が運転されていますが、尻手と浜川崎の間を2両編成の電車が行き来する浜川崎支線は、大都市圏にもかかわらず、1時間に2本程度しか運転されないので大変不便。川崎市臨港地区の貴重な公共交通機関であるはずですが、あまりに不便なため、このエリアの方はほとんどが川崎駅から路線バスを利用しています。この記事の後半でお伝えしますが、今回取り上げる「朝日湯源泉ゆいる」へ公共交通機関でアクセスする場合も、実は川崎駅から路線バスを利用した方がはるかに便利です。


週末の日中だからか、2両編成だというのに車内はガラガラ。その一方で、乗客の絶対数が少ないにもかかわらず、昼間から車内で缶酎ハイを飲む乗客が複数名いらっしゃり(しかも男女問わず)、この地域のカラーが良く現れているように思います。全線乗り通しても10分かからないのに、それすら我慢できずにアルコールを口にしてしまうのですから、余程なんでしょうね。そんな左党に驚きながら、車窓に工場が広がり、貨物用の線路が輻輳し始めると、終点浜川崎駅に到着。


浜川崎駅からあまり雰囲気の良くない歩道を進んで貨物線を潜り、バスの車庫を左に見ながら、産業道路を横断して、広い道をしばらく歩くと、今回の目的地「朝日湯源泉ゆいる」に到着です。


以前は臨港地区の住宅街で営業する一軒の銭湯でしたが、一旦閉館した後、川崎区では初となる大深度掘削により温泉を掘り当てて、温泉入浴施設としてリニューアルオープンしたんだそうです。


リニューアルした朝日湯は、以前のような地域庶民の生活に根差す銭湯というより、温泉やサウナで体を温めながら館内でゆっくり過ごすことを目的としたリラクゼーション施設と称すべき営業スタイルへ変貌しています。それゆえ、料金設定は物価統制令に依らない少々高めの設定となっており、それを知らずにいきなり訪ねると、その料金設定に面食らうかもしれません。

まず館内に入り、下駄箱の鍵をフロントに預けます。番台ではなくフロントというカタカナ表記が相応しい雰囲気です。下駄箱の鍵と引き換えに、精算用バーコードが付いたロッカーキーと、大小1枚ずつのレンタルタオルを受け取ります。なお館内着の用意もあるのですが、こちらは別料金です。

1階にはフロントとレストランが設けられています。上画像はレストランの様子。お風呂上がりに館内着姿でビールを飲みながら寛ぐお客さんの姿も見られました。銭湯らしくないその光景から察するに、早くも施設側の目論見通りに利用されているようです。


浴場は2階ですので、エレベーターか階段で2階に上がります。玄関から2階浴場まで真新しい館内を進んでいると、限られたスペースを上手く工夫しながら各設備を配置しているような印象を受けました。
脱衣室にはロッカーがたくさん設けられており、しかも一つ一つのロッカーは縦長なので容量が比較的大きく使いやすいかと思います。またドライヤーもたくさん用意されているので、他人が終わるのを待つことなく髪を乾かすことができるでしょう。
新しいだけあってどこもかしこもピカピカでしたが、スタッフの方がこまめに清掃していらっしゃるので、その新しい輝きに磨きをかけているようでした。

なお建物は3階建てで、3階には休憩ゾーンが設けられており、近年のスーパー銭湯と同様に漫画の蔵書多く、お座敷でみなさん横になっていました。

浴場の様子については、文章のみで説明させていただきます。また、私が実際に利用した男湯の説明となります。
悪しからずご了承ください。

お風呂は内湯のみで露天風呂はありません。脱衣室から浴室に入り、サウナ、そして垢擦りルームの間を抜けると、右手に洗い場が配置されています。洗い場にはシャワー付きカランが11基並んでおり、さすがに新しい施設なのでシャワーからの吐出圧力は良好でした。なお洗い場に用意されているアメニティ類は、「アロマドール(ダージリンティー)」という名前の、良い香りがするちょっとクオリティの高そうなものでした。

洗い場の向かいには、区内初の大深度掘削により揚湯した温泉を張る主浴槽(温泉風呂)が据えられています。大きなL字形をしたタイル張りで、湯加減はぬるめにセッティングされており、私の体感で38~40℃だったように記憶しています。後述しますが、こちらのお湯は非常に塩辛いタイプの食塩泉であり、一般的な湯加減にしてしまうとすぐ逆上せてしまうため、このようにぬるめに調整してくれると、体への負担を重くすることなく湯あみできるんです。長湯仕様のおかげで実に心地良く入浴できました。

この温泉浴槽で面白いのは、10~15分ごとに湯口から非加温の生源泉と思しきお湯を投入していることです。浴槽のお湯は加温循環されているのですが、これだけではなく、間欠的に源泉と思われるお湯を投入し、お湯の鮮度を向上させているのです。分析表によれば湧出時のお湯は35℃だそうですから、そのまま湯口まで導かれたらそこそこの温度が維持されているはずですが、メタンガスを多く含む東京湾岸の化石海水型温泉ですからどうしてもガス抜きを行わなければならず、またお湯の量も限られているために一旦貯湯槽でストックする必要があり、湯口から出てくる源泉(と思しきお湯)は水道水並みに冷たいものでした。でも、浴槽内では循環された熱い加温湯が投入されているわけで、この非加温湯の投入により上述のような入りやすいぬるめの湯加減になっているのでした。

主浴槽の隣にある3人サイズの小浴槽には熱い温泉が張られており、私の体感で43℃前後だったかと思うのですが、こちらにも主浴槽と同じく間歇的に非加温の源泉が投入されていました。
なお、露天風呂は無いものの「外気浴」と称する小さな空間が設けられており、鎧戸越しに入ってくる外気をデッキチェアーで横になりながら全身に受け、これによってクールダウンを図ります。この空間には天井扇風機が回っており、外気によるクールダウンを補助していました。

こちらのお風呂で、実は温泉以上にプッシュしているのではないかと思われたのがサウナです。一見すると普通のこじんまりしたサウナなのですが、定時にロウリュウのサービスが実施され、ちょうど私が入浴した時もその実施時間がやってきて、浴室内のおじさんやお兄さんたちが「待ってました」と言わんばかりに続々とサウナへ入っていったのでした。

またサウナに関連してこの施設の特徴のひとつになっているのがサウナの隣にある水風呂です。施設側の説明によると、何と関東地方で最も深い水風呂なんだそうで、実際に入ってみますと、身長165cmの私が完全に沈んでしまうほど深く、しかも井戸水を使っているのでとっても冷たいのです。冷たいので回転が早く、皆さん早々に出ていきます。深いので溺れないよう注意してくださいね。この水風呂は上述の外気浴と並んでクールダウンに役立つ施設であり、ロウリュウが人気なサウナで熱くなったり、あるいは強食塩泉のお風呂で逆上せかかった体を、こうしたクールダウン設備によってしっかり冷ますことができるのは有難いところです。

更に面白いのが、水風呂と温泉風呂の間に挟まれた炭酸風呂。最近は多くのスーパー銭湯でも炭酸風呂を見かけますが、こちらのはひと味違うのです。と申しますのも、6~7人サイズの浴槽に張られた真湯に炭酸ガスが溶かされているのですが、炭酸ガスが溶けやすいようお湯がかなりぬるめにセッティングされており、その温度を活かしているのか、炭酸の濃度がかなり濃いのです。他の施設ではなかなかお目に掛かれない濃さの炭酸であり、実際に入ってみますと、忽ち全身が泡だらけになり、肌の表面でパチパチ弾けるのでした。

さて肝心のお湯に関するインプレッションについて述べましょう。間歇的に湯口から吐出される非加温の生源泉と思しきお湯は無色透明に見えますが、浴槽のお湯は薄く緑色を帯びた暗めの黄色で、例えて表現すれば濃く淹れたジャスミンティーみたいな色をしています。分析表によれば、ヨウ素や臭素が相当多く含まれているはずなのですが、しっかり抜いているのか、あるいは私が鈍感だからか、あまり感じられませんでした。またこの手の化石海水には鉄分などの金気も多く多く含まれているはずですが、やはりあまり伝わってきませんでした。ストックの段階でしっかり取り除かれているのでしょうか。でも非常に塩辛く、食塩泉らしいツルスベの滑らか浴感もしっかり肌に伝わってきます。また、強食塩泉ですから、たとえぬるいお湯に浸かっていても、パワフルどころか凶暴なまでに温浴効果が発揮され、湯上がり後は汗がいつまでも引きませんでした。あまり温泉に長湯せず、適度に水風呂へ入るなどクールダウンを図りつつ、お風呂から上がるときには上がり湯を掛けるなどして、しっかり火照り対策をとりましょう。


退館時、フロントでバーコード付きリストバンドキーを返却し、利用料金を精算します。支払いにはクレジットカードが使えます。建物から出て、裏手の駐車場を覗いてみると、そのの一角に源泉施設と思しきものがありました。京浜地区の温泉・鉱泉といえば黒湯が有名ですが、当然ながら目の前には東京湾が広がっており、地下深くには古東京湾の化石海水が眠っているわけですから、深く掘削すれば高確率でこのような強食塩泉が湧出するのでしょうね。


そういえば、退館時に、ロッカーの番号がその日の抽選番号と同じ(つまり抽選に当たった)ということで、上画像の手拭いをいただき、施設の方と記念撮影しちゃいました。どうやら施設のツイッターアカウントでその写真が掲載されたようです。興味がある方はご覧あれ(3月下旬の投稿かと思います)。


冒頭で路線バスの方がはるかに便利と申し上げました。この施設の目の前には「川24系統」の「臨港中学校前」バス停があるんです。川崎駅から出る「川24系統」のバスは本数が多いので、私のように南武線浜川崎支線ではなく、路線バスの利用を強くおすすめします。


川崎朝日湯温泉
含よう素-ナトリウム-塩化物強塩温泉 35.0℃ pH7.44 蒸発残留物25.86g/kg 成分総計25.80g/kg
Na+:8825.0mg, NH4+:101.3mg, Mg++:218.0mg, Ca++:400.0mg, Fe++:9.5mg,
Cl-:15250.0mg, Br-:70.1mg, I-:23.6mg, HCO3-:458.2mg,
H2SiO3:137.6mg, HBO2:10.5mg, CO2:21.6mg,
(平成29年4月26日)
加水あり(温泉供給量が不足した場合)
加温あり(入浴に適した温度に保つため)
循環あり(衛生管理のため)
消毒あり(衛生管理のため)

川崎市川崎区鋼管通3-1-2
044-333-4126
ホームページ

10:00~23:00(受付終了22:00) 毎週水曜定休
平日1540円(5時間) 土休日1760円(5時間) (別途入湯税150円)
料金にはレンタルタオル(大小1枚ずつ)が含まれています

私の好み:★★
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湯河原温泉 源泉上野屋(日帰り入浴)

2019年07月31日 | 神奈川県

前回に引き続き神奈川県湯河原温泉を巡ります。
今度は千歳川を遡って温泉街へと入り、特に温泉街の中でも老舗が集まる細い路地へ入り込んでみました。今回お邪魔したのは、その路地の最奥にある「源泉上野屋」です。今回は日帰り入浴で利用しました。




創業300年以上という湯河原きっての老舗旅館。なんと徳川光圀も訪れたことがあるんだそうです。
まず訪問者を出迎える昭和11年建築の玄関棟が実に美しく、私はこの唐破風の前で、まるで黄門さまの印籠を見せつけられた悪人の如く、しばし立ち尽くして見惚れてしまいました。なお、この玄関棟につながる本館は昭和5年築。傾斜地形に合わせる感じで建てられた4階層の建築なんだとか。



この他大正12年築の別館と合わせて、大正から昭和にかけて建てられたこれらの総木造の建物は、国に有形文化財に登録されています。



さて、こちらのお宿には貸切露天風呂など複数のお風呂があるのですが、日帰り入浴で利用できるのは1階の内湯のみ。受付開始の午後2時に合わせて日帰り入浴をお願いしますと、快く受け入れてくださいました。帳場の斜め前に暖簾が下げられています。内湯は「六瓢の湯」と名付けられており、「檜風呂」と「御影石風呂」の2室があります。訪問時は「檜風呂」に男湯の暖簾が掛かっていましたので、ここから先は「檜風呂」に関して述べてまいります。なお男女入れ替え制ですから、宿泊すれば両方に入れますよ。



和室然とした脱衣室はコンパクトですが、綺麗にお手入れされており、ドライヤーやアメニティなども備え付けられているので、大人数で押し寄せなければ気持ち良く使えるはず。また扇風機も取り付けられていますから、湯上がり後にはクールダウンも可能です。



内湯もあまり風呂敷を拡げることなく、温泉浴場の要素を凝縮したようなコンパクトな造りです。後述するように自家源泉を完全掛け流しで浴槽へ供給しているため、そのお湯の良さが損なわれないサイズとしてこの浴室の大きさが考えられたのではないかと思われます。



洗い場にはシャワー付きカランが3つあり、アメニティもそろっています。



内湯の浴槽は1つのみ。浴槽の大きさは(目測で)1.8m×3.6mでしょうか。「檜風呂」という名前の通り、縁には檜材が用いられている一方、浴槽内部は丸い豆タイルが用いられています。余計な装置や装飾など一切設けられていませんから、シンプルながら重厚感と温かみを兼ね備えた四角形の浴槽で、湯あみ客は自家源泉100%掛け流しのお湯と正面からじっくり対峙するわけです。
上画像を見るとわかりますが、浴槽向かって左側には湯口が2つあり・・・



窓側は「源泉 冷し湯」。その名の通り、40℃前半まで冷まされた源泉が石の樋を流れて出てきます。コップが置かれていたので飲泉してみますと、まず石膏臭と芒硝臭がコップの中でふんわり香り、その後甘い塩味と石膏味、そして芒硝味がしっかり合わさって舌に伝わってきました。



一方、手前側は源泉そのままのお湯が、石の瓢箪から注がれています。分析表によれば源泉の湧出温度は80℃以上もありますから、そのお湯がストレートに出ているこの湯口のお湯は激熱。直に触ると火傷するかも。なお湯口の形状に関しては上述のように内湯は「六瓢(むびょう)の湯」と称されていますから、その瓢箪を湯口に採用したのでしょう。なぜ六瓢なのかといえば、瓢箪は縁起物であり、かつ「六瓢」と書けば無病に通じるからなんだそうです。

瓢箪のまわりには硫酸塩の白い析出がビッシリ且つコンモリとこびりついており、温泉マニアとしてはその様子を目にするだけでも興奮間違いなし。お湯の見た目は無色透明で一見クセが無さそうですが、この迫力ある析出がすべてを物語っています。すなわち硫酸塩泉ならではのパワーがすごいのです。肩まで湯船に浸かると、ツルツルにトロトロが混在したような滑らか系が優勢な浴感が肌に伝わり、その後に硫酸塩泉的なキシキシ浴感も遅れて感じられるのですが、基本的にはツルツルが優勢。これはpH8.5というアルカリ性に傾いている特徴がもたらす感覚でしょう。滑らかな浴感だからといって迂闊に長湯すると、硫酸塩泉ならではの温浴効果がいかんなく発揮され、体が十分すぎるほど良く温まり、そしてポカポカ火照ります。こちらのお宿の隣にある「ままねの湯」は熱い湯船だから強烈に火照るのですが、こちらは適温にもかかわらず火照るわけですから、これぞ温泉の力以外何ものでもありません。大変パワフルなお湯です。

なお湯使いに関しては既に申し上げているように自家源泉の掛け流しであり、湧出温度がとても高い為、お湯張り時のみ最低限の加水をしているほかは、循環消毒など一切なし。私の入浴時、湯口から落とされるお湯の量は一定せずに増減を繰り返していたのですが、もしかしたら浴槽の水位によって供給量を調整しているのかもしれません。もちろん湯温の調整が目的かと思われますが、湧出量が毎分64リットルと限られているため、その範囲内で掛け流しを実践するための工夫なのかもしれません。

趣きあるお風呂で、鮮度抜群の極上なお湯に浸かれる幸せ。日帰り入浴だけでは却って欲求不満になってしまうかも。一度宿泊してじっくりと堪能したい、実に素晴らしいお湯でした。


台帳番号 湯河原第22号
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 81.5℃ pH8.5 64L/min(動力揚湯・掘削深度363m) 溶存物質1.832g/kg 成分総計1.832g/kg
Na+:425mg(69.54mval%), Ca++:148mg(27.78mval%),
Cl-:582mg(60.34mval%), Br-:1.74mg, SO4--:458mg(35.06mval%), HCO3-:61.6mg,
H2SiO3:114mg, HBO2:9.54mg,  
(平成30年11月13日)
加水あり(湯温調整の為、湯張り時のみ最低限の加水)
加温・循環・消毒なし

神奈川県足柄下郡湯河原町宮上61
0465-62-2155
ホームページ

日帰り入浴1000円
14:00~
ロッカー見当たらず(貴重品帳場預かり?)、シャンプー類。ドライヤーあり

私の好み:★★★


コメント (2)
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湯河原温泉 みやかみの湯

2019年07月24日 | 神奈川県
拙ブログでは約10年ぶりに神奈川県湯河原温泉を取り上げます。
今年の春の某日、私は電車に乗って久しぶりに湯河原へ向かいました。というのも、当地に今年(2019年)1月に新しい温泉入浴施設がオープンしたらしく、しかも源泉かけ流しを謳っているので、是非とも行ってみたかったのです。
駅構内にある観光案内所で自転車を借り、温泉街へ向かって漕ぎ出すこと数分で現地に到着しました。



場所は湯河原温泉街よりかなり手前の駅寄りで、千歳川に面しており、西村京太郎記念館が隣接しています。駅前から温泉街へ伸びるバス通りからアクセスする場合は、まずコンビニ(ミニストップ)の駐車場を通り抜けてマンションの裏手に出ることになるので、ちょっとわかりにくいかもしれません。また、上述のように私はレンタサイクルで行きましたが、車の場合はコンビニと共用の駐車場を利用することになり、台数も決して多くないので、そのあたりも少々注意を要するかもしれません。

平屋の黒くてシックなファサードはいかにも当世風。コンパクトながらバリアフリーにも配慮された玄関を入ると、右前方に受付が設けられています。こちらの施設では大浴場のほか、個室の貸切風呂や泥パックサウナやハーブテントなどを利用できるため、入館時に利用したいサービスを選択するのですが、初めての私はよくわからなかったため、スタッフの方にお風呂だけ入りたい旨を告げたところ、LINEで友達登録すると料金がかなり割り引かれると教えてくれました。そこでバッグからスマホを取り出し、受付の前でLINEを起動して実際に友達登録したところ、通常でしたら1500円+税金などで1700円近くになる入浴料が、なんと500円も引かれて1200円になったではありませんか。従いまして、本施設をご利用の際は、是非スマホをご持参くださいね。

さて、受付で下駄箱のカギと引き換えに、ロッカーキーと大小のレンタルタオルを一枚ずつを受け取ります(タオルは専用のバッグに入っています)。なお歯ブラシやカミソリ、ブラシなどの各種アメニティは受付でもらえます。大浴場は1階受付のすぐ目の前。受付カウンターの右が女湯、左が男湯です。

オープンしてまだ間もない施設ですからどこもかしこもピッカピカ。脱衣室は黒基調でシック。洗面台は綺麗ですし、ドライヤーも複数台備え付けられ、コットンパフや綿棒など各種アメニティーもしっかり用意されています。ロッカーは正方形や長方形などいろんな形状があるのですが、それぞれ大きく使いやすいので、ストレスを感じません。総じて清潔感があり、使い勝手も良好です。



外観が決して大きくないことからも想像がつきますが、浴場はあまり大きくありません。限られたスペースの中に複数の浴槽をギュッと凝縮して設えた感じがします。
浴室に入ってまず目に入ってくるのが、上画像のかけ湯と立って使うシャワーです。かけ湯の桝には温泉が張られており、湯口から温泉がチョロチョロと滴り落とされているのですが、本記事の結論から先に申し上げてしまうと、このかけ湯のお湯は、他の浴槽と比べると、温泉としての状態が最も良かったかもしれません。



洗い場にはシャワー付きカランが4基設置されており、各ブースが袖板でセパレートされています。カランはデザイン性の高いものが採用されており、アメニティーもそこそこ高そうな品が用意されていて、そこはかとなくラグジュアリ感を醸し出しています。なおカランから出てくるお湯は真湯です。



内湯にはふたつの浴槽があり、手前の小さな槽は水風呂、奥は循環している温泉に炭酸ガスを溶かした炭酸風呂です。両浴槽とも伊豆青石でつくられており、肌に触れた時の滑らかな感触が寛ぎに一役買っています。
館内の説明によればこの炭酸風呂は湯河原で初めて導入されたものなんだとか。せっかく歴史ある温泉地なのに、お湯の質ではなく炭酸を売りにするのはいかがなものかと首を傾げてしまいましたが、何はともあれ35~6℃というぬるいこのお風呂に入ると、体の副交感神経が優位になり、また炭酸の気泡のよる効果も相俟って、自分の屁理屈など忘れてしまうほどリラックスできました。



内湯からガラスの戸を出ると半露天状態の休憩スペースが設けられ、ベンチがたくさん並べられていました。一般論として、温泉の湯船に浸かっていると体がよく温まって火照るため、湯船から上がってちょっとクールダウンしたくなりますよね。施設によっては休憩できるスペースが全くないお風呂もありますが、こちらの施設は上述のように大浴場のスペースは限られているものの、きちんと休憩用の空間を確保しようと頑張っていらっしゃるので、その発想は立派だと思います。



半露天の休憩スペースを抜けると露天風呂です。
千歳川沿いの道路に面しているため、四方を塀や壁に囲まれており開放感に乏しいのですが、塀越しに川向こうの山の緑を眺められ、空も仰げますから、風と四季を感じながら湯あみを楽しむことができるでしょう。また完全に塀で囲わず、その一部に曇りガラスをはめ込むことにより、閉塞感を払拭しながら明かり採りも兼ねているようでした。



浴槽はL字型。手前側(建物側)の長辺は約4メートル。一方、建物と直角を為す辺の奥行は約3メートル。いずれの辺も幅は1.5mほどです。内湯と同じく浴槽は伊豆青石でつくられています。



湯口からお湯が滔々と落されていましたが、そのお湯は適温より若干低かったように記憶しています。露天風呂の浴槽内には投入口と吸入口がそれぞれ2つずつあり、投入口からはちょっと熱めのお湯が投入されていましたから、湯面の上と下の両方から供給することで湯温を保っているのでしょう。なお吸入口からもお湯がしっかり吸い込まれていました。お湯の排出に関してはこの吸入口のほか、浴槽ステップ部の切り欠けからもオーバーフローがありますので、湯使いとしてはおそらく循環と放流式の併用ではないかと想像されます。なお湯加減は42℃前後でした。

こちらに引かれている温泉は、土肥地区に供給されている混合泉です。湯河原では貯湯および配湯施設をサービランスと称しており、土肥地区のサービランスは貯湯槽1基(300t)、土肥地区配湯設備(配湯先45件)、宮上第2地区配湯設備(配湯先62件)という構成になっているんだとか。詳しくは湯河原町公式サイト「温泉施設紹介」のページをご覧ください。つまり、この施設は土肥サービランスの配湯先の一つなんですね。

お湯の特徴としては無色透明無味無臭と言っても差し支えないほど掴みどころに乏しいのですが、上述のように掛け湯のお湯が最も感触が良く、石膏の感覚があり、また微かな塩味も得られます。いや、それどころか湯船に浸かっているうちにガツンと力強く火照り、いつの間にやら温泉パワーにすっかり逆上せそうになりました。薄くて特徴のないお湯かと思いきや、裡に秘めたる実力は相当なもの。なめてかかってはいけません。

なお館内表示によれば消毒処理を実施しているようですが、特に消毒臭は気になりませんでした。一方、露天風呂について、館内表示などでは掛け流しを謳っていますが、実際には放流式と循環式の併用かと思われ、純粋な掛け流しとは言い難いので、そのあたりの表記には少々戸惑いを覚えます。もしかしたら今回利用しなかった貸切風呂は完全掛け流しなのかな?

(本記事投稿後にコメント欄にて、このお風呂に入られた方から「完全掛け流しと思われた」との情報をいただきました。その時々によって湯使いを変えているのかもしれません)

料金設定が高いために週末でも混雑は起こりにくそうですし、何よりも館内が綺麗で使い勝手が良いので、湯河原でのんびり日帰り入浴して寛ぎたい方にはもってこいかもしれません。朝から深夜まで営業時間帯が長いものありがたいですね。今回の記事では取り上げなかった泥パックサウナやハーブテントなども面白そうです。


混合泉(土肥サービランス)
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 59.6℃ pH8.3 蒸発残留物1.591g/kg 成分総計1.596g/kg
Na+:388mg, Ca++:117mg,
Cl-:573mg, Br-:1.69mg, SO4--:332mg, HCO3-:42.9mg,
H2SiO3:99.0mg, HBO2:8.72mg,
(平成22年3月12日)
加水あり(入浴に適した湯温に調整するため)
加温あり(入浴に適した湯温を保つため)
循環あり
露天:消毒なし、内湯:消毒あり

JR東海道本線・湯河原駅より徒歩17分、もしくは不動滝・奥湯河原行バスで「小学校前」下車徒歩3~4分(路線バスは箱根登山バス伊豆箱根バスの共同運行)
神奈川県足柄下郡湯河原町宮上42-15

7:00~23:00(最終入館受付 22:00)
ホームページ
入浴1500円+消費税(レンタルタオル付)
その他の料金については公式サイトをご参照ください。

私の好み:★★
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宮城野温泉 勘太郎の湯

2016年01月08日 | 神奈川県
※残念ながら2019年6月に閉店しました。


仙石原へ出かけたついでに、以前から気になっていた宮城野温泉「勘太郎の湯」にも立ち寄ってみました。私が訪れたのは、箱根山の噴火警戒レベルが3に上げられた2015年の6月下旬。夕方だというのにピロティ式の駐車場には車が止まっておらず、館内は閑散としており、後述するお風呂では終始独占できてしまいました。それだけ火山活動の活発化に伴う各種規制は、箱根の主要産業である観光業に甚大な影響を与えたのでしょう。その影響もあってか、私が訪れた約2ヶ月後の昨年9月には営業形態が変わり、料金が1000円から800円へ値下げされ、食堂営業もやめてしまったんだとか(その代わり持ち込みは自由になったんだそうです)。


 
脱衣室はそこそこ広く、空調も効いており、棚や洗面台の数も多くて使い勝手良好です。箱根にしては珍しくコインロッカーは100円玉のリターン式ですので、実質無料で使えます。箱根・伊豆エリアの温泉では有料のロッカーが大多数ですので、これは良心的かもしれませんね。


●内湯
 
まずは内湯から。ガラスを多用している浴室は明るく開放的で、手入れもよく行き届いており、気持ちよく使えました。


 
洗い場に並んでいるシャワー付きカランは5基。脱衣室や浴室の広さから推測するに、相当の大人数利用を想定している施設かと思われますが、週末の混雑時は果たして5基だけで間に合うのか、洗い場の空き待ちが発生するのではないかと、余計な心配を焼いてしまいました。吐出圧力が弱いので、せっかちな私はちょっとイライラしちゃいましたが、館内説明によれば、カランから出てくるお湯は源泉を使用とのこと。そう言われたら確かに水道水の沸し湯とは違うような気がしますし、言われなければ源泉のお湯だと気づかないでしょうし、ちょっと微妙な感じ・・・。


 
ガラス窓に面して主浴槽が長く横たわっています。館内表示によれば加水・循環・消毒が実施されており、状況に応じて加温も行われているとのこと。実際に槽内で強力にお湯が吸い込まれており、オーバーフローは一切見られず、循環されたお湯が吐出口から供給されていました。
消毒臭こそ気にならなかったものの、手の加えられたお湯は個性が失われてしまい、実際に湯船に浸かってみても、これといった温泉らしい特徴は感じ取れません。でも露天風呂に近いところに設けられた筧から落とされているお湯は直に触れないほどの激熱であり、微塩味やわずかな石膏感が得られたので、おそらく生源泉かと思われます。ということは、どうやら循環のみならず、生源泉も併行して投入されているのでしょう。


 
私が内湯の中で最も浴感が良いと感じ取ったのは、浴室出入り口付近に設けられた円形の掛け湯(上がり湯)。手桶がたくさん置かれたこのお湯には、どうやら源泉が使われているらしく、しかも掛け流しのようなのです。
なお、この掛け湯の前に位置する主浴槽の端っこは、円形の槽になっており、ジェットバス装置が稼働していました。


●露天岩風呂
 

つづいて露天風呂へ。竹垣と女湯露天に挟まれた細長い空間に、東屋で覆われている岩風呂が設けられており、その縁で石造りのカエルが湯浴み客を見守っていました。直線的な下顎の顔立ちは、カエルというより「サザエさん」のアナゴくんみたいであり、決して青空球児好児の「ゲロゲーロ」を連想させるものではありません。内湯同様、こちらのお湯も加水循環消毒が行われており、オーバーフローは一切ありません。


 
露天の湯口は2つあり、溶岩のような黒い多孔質の岩から出ているお湯は、カルキ臭を強く放つ循環湯なのですが、竹の筧から落とされるお湯は直に触れないほどの激熱で、内湯と同じくこれも多分源泉のお湯なのかと思われます。ろ過されていない生源泉だからか、筧の直下やそのまわりは、うっすらと赤茶けていました。

正直なところ、この内湯と露天では加水循環消毒されていることを事前に知っていたので、この2つだけでしたら、私はわざわざこのお風呂へ立ち寄りません。本当の目的はこの先にあるのです・・・。


●露天大理石風呂
 
露天岩風呂の最奧には、源泉のお湯がかけ流されている「露天大理石風呂」があり、これが私のお目当てなのでした。でもこのお風呂は一つしかないので、日によって男女交代制となっており、奇数日は女湯、偶数日は男湯という感じで使い分けられています。もちろん私は偶数日であることを確認の上で、訪れたのでした。出入口には扉が設けられており、日によって施錠できるようになっていました。秘密の小部屋に忍び込むようなワクワク感を抱きながら、クランク状の出入口を抜けて奥へと入ると・・・


 
男女別の露天岩風呂は和の趣きでしたが、板塀を一枚隔てた向こう側は、このように洋風の誂えになっており、急に別施設に迷い込んでしまったかのような錯覚に陥りました。とても同じ施設とは思えない統一性の無さは、ある意味で中小民間施設らしい特徴なのかもしれません。
ヨーロッパのお屋敷の中庭に設けられた噴水広場のような空間に、丸い浴槽がひとつ据えられており、その奥に立ちはだかるレンガの壁では、冷水がしたたり落ちる飾りが施されていました。はじめにその形状を目にした時には足湯かと思ったのですが、実際に足を突っ込んだところ、あまりの冷たさにビックリして、つい「ギャー」と叫んでしまいました。あぁ、情けない・・・。


 
丸い浴槽は完全な円形ではなく、上と下をスパっと直線状に切り取ったような形状をしています。大理石風呂という名称ですが、実際に大理石が用いられているのは円形の縁取りだけで、槽内はカラフルなタイルが用いられていました。
御影石の湯口からは源泉のお湯が注がれており、直に触ると火傷しちゃうほど熱い時もあれば、適温に下がることもあり、またしっかりした量が流れてくることもあれば、チョロチョロと量が絞られることもあったりと、湯船の状況に応じて加水の有無や投入量が自動的にコントロールされているようでした。上述のように、この日はお客さんが少なかったためか、湯船に湯鈍りは発生しておらず、浴槽内にはクリアに澄み切ったお湯が張られていました。


 
館内表示の通り、加温循環消毒は行われていない放流式の湯使いで間違いないようであり、常時縁の下の隙間からオーバーフローしているほか、私が湯船に入ると縁の上を越えて溢れ出てゆくお湯の流れも生まれました。

お湯は無色澄明で微塩味と仄かな石膏感があり、湯口のみでほんの僅かにミシン油臭も嗅ぎとれました。湯船に浸かった時の浴感は、内湯や露天岩風呂と比べてはるかに優れており、シルクの肌触りのようなとてもきめ細かい感触と、食塩泉らしい滑らかでトロミのある浴感がしっかりと楽しめました。でもこのお湯の浴感はかなりデリケートなものであり、循環などの手を加えたら忽ち喪失してしまうことは必至。それゆえ、この源泉の個性を楽しむならば、この大理石風呂でないといけません。

箱根の温泉入浴施設はどこも料金設定が高いのですが、こちらでは昨年秋に値下げを実施し、更に公式サイトのクーポンを活用することによって700円で利用できるようになりましたから、少なくとも箱根という限定されたエリアで考えれば、比較的コストパフォーマンスの良い施設と言えるでしょう。源泉の良さがわかる大理石風呂はひとつしかないため、カップルや家族連れで訪れると、かならず男女のどちらかがお湯の本来の良さを味わえない事態になってしまいますが、宮ノ下から仙石原、そして御殿場へ抜ける便利なルートの途中にありますから、都合が合えば立ち寄ってみるのも良いかもしれません。


宮城野第129号
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 84.5℃ pH8.6 溶存物質1.521g/kg 成分総計1.521g/kg
Na+:392mg, Ca++:115mg,
Cl-:617mg, Br-:1.23mg, SO4--:247mg, HCO3-:24.8mg,
H2SiO3:80.9mg, HBO2:22.1mg,
(平成26年7月23日)
内湯および露天岩風呂:加水あり・加温あり(季節等による)・循環ろ過あり・消毒あり
露天大理石風呂:加水あり、加温循環ろ過消毒なし

箱根登山バスの桃源台線で「宮城野」下車、徒歩2分
神奈川県足柄下郡箱根町宮城野923
0460-82-4477
ホームページ

※残念ながら2019年6月に閉店しました。
平日11:00~19:00、土日祝10:00~20:00、金曜定休
800円(公式サイトに100円引のクーポンあり)
ロッカー(100円リターン式)・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
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