前回記事の四万温泉・新湯地区から、四万川をちょっと下った山口地区へと移ってまいりました。
今回、山口地区の日帰り入浴で伺ったのは、大正元年創業の老舗「三木屋旅館」です。歴史あるお宿ですが、現代的な建物からは気品が伝わってきます。
玄関前のつくばいには、ぬるい温泉が落とされていました。建物へ入る前から温泉のお湯に出逢えると、何となく嬉しくなっちゃうのは私だけでしょうか。
午後3時半頃に訪って日帰り入浴をお願いしますと、快く受け入れてくださいました。
帳場で湯銭を支払いますと、お宿の方がフェイスタオルを私に下さると同時に、お風呂まで案内してくださいました。階段で2階へ上がり、絨毯敷きの廊下を歩いてゆくと、すぐ右手に浴場棟へつながる渡り廊下が分岐します。お風呂は内湯と露天があり、お宿の方は露天をすすめてくれたのですが・・・
まずは内湯「不老の湯」に入らせていただくことにしました。階段を上がった先に暖簾が掛かっており、左が女湯、右が男湯です。
綺麗ながらも必要最小限の設備に留めている脱衣室を抜けて内湯へ。
木材と石材の組み合わせにより落ち着いた雰囲気の内湯には、総木造の浴槽が設けられており、大きさは私の目測で1.2m×3.6mほど。この浴槽からは木のぬくもりや優しさとともに、老舗宿らしい重厚感が伝わってきます。
洗い場にはシャワー付きカランが計4基取り付けられ、カランからはボイラーの沸かし湯が出てきます。
お湯は木枠の湯口から静かに注がれており、湯船を満たしたお湯は窓側の縁からしっかり溢れ出ていました。お湯の投入量が絶妙な塩梅に調整されているため、とても快適な湯加減が維持されていました。静かで落ち着ける上品なお風呂です。
内湯に満足した私は、一旦着替えて再び廊下へ戻り、今度は露天風呂へ向かいました。専用の勝手口から宿の裏手に出て外履きに履き替えます。そして目の前の階段を上がると、まず目に入ってくるのがこのあたりの集落のお墓。意外なものの登場に少々面食らいましたが、気持ちを取り直してお墓の前を右に折れて階段を更に上がると、その先に露天の湯小屋がありました。扉を開けて中に入ります。手前が女湯、奥(左)が男湯です。
露天の上屋は木造で、開放的かつゆとりのある造り。
斜面の高台に位置し、山口集落を見下ろすようなロケーションです。露天風呂があるスペースは板敷きになっていて、あたかも能の舞台のようです。屋根にすっかり覆われているものの、圧迫感は無く、むしろ谷に向かって開放的なので、屋根の存在はあまり気になりません。
浴槽の大きさは1.2m×2.4mといったところでしょうか。縁には木材、内部には石板が採用されており、市緑豊かな周囲の環境と、静かで落ち着いたお風呂の雰囲気に大変よく合っています。訪問時はお湯の投入量が絞り気味だったのですが、おそらく源泉温度が熱いため投入量で湯加減を調整していたのかもしれません。とはいえ、私が湯船に入るとしっかり溢れ出ていきました(その代わり湯嵩の回復には時間を要しました)。
なおこの露天風呂にも洗い場にあり、シャワー付きが2つ並んでいます。余談ですが、シャワーのお湯を出すと、裏手からボイラーの動作音が聞こえてきました。
上述のように周囲を見下ろす場所に位置しているため見晴らしがよく、目下を横切るバス通り(旧メインストリート)や集落、四万川、そして対岸の山の緑を一望できます。空が広くて緑がとっても綺麗です。山の木々の上を鳥たちが囀りながら飛び交っており、小鳥の声を音楽にしながら大変のんびりと湯浴みすることができました。なお対岸には国道のバイパスが走っており、その橋からこちらが見えてしまうのですが、基本的にこの辺りは車で通過しちゃいますから、道路からこちらに気づく人は少ないでしょう。
内湯・露天とも温泉は完全掛け流し。夏季には加水されるそうですが、少なくとも私の訪問時は湯量調整により湯加減をコントロールしていており、加水は無かったように思われるので、源泉の持ち味を大切にするべく、余程熱くならない限りは加水をできるだけ避けているのかもしれません。源泉名は内湯の浴室名にもなっている不老の湯源泉。無色澄明で綺麗に澄んでおり、湯面からは木材のような香ばしい香りと石膏の匂い、そして味が感じられます。いずれもそれほど強くありませんが、意識して感じ取ればしっかり確認できるかと思います。入浴して間もなくはスルスベの滑らかな浴感ですが、肩まで入って全身がお湯に包まれると、硫酸塩泉らしい引っかかるような浴感も得られます。トロミがあり肌にしっとりと馴染んでくれるとても良いお湯です。私は露天で時間を忘れて、ぼんやりといつまでも入り続けてしまいました。群馬県民にはお馴染みの上毛かるたの読み札で「よ」は「世のちり洗う 四万温泉」と詠われていますが、このお風呂に浸かっていると、まさに私の心の中に溜まっていた塵や滓がオーバーフローとともに流さ去ってゆくようでした。
今回は日帰りでしたが、次回は宿泊してゆっくり湯浴みしたいものです。
不老の湯
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 51.9℃ pH7.4 蒸発残留物1.45g/kg 成分総計1.43g/kg
Na+:276mg, Ca++:167mg,
Cl-:455mg, SO4--:280mg, HCO3-:79.4mg,
H2SiO3:104mg, HBO2:31.2mg,
(平成13年3月26日)
夏季のみ加水あり(他季節は加水なし)、加温・循環・消毒なし
群馬県吾妻郡中之条町四万甲3894
0279-64-2324
ホームページ
日帰り入浴15:00~
1000円
ドライヤー・ロッカーの備え付けなし
私の好み:★★★