温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

川原湯温泉 笹湯

2009年09月25日 | 群馬県


新任の国土交通大臣の発言により建設工事中止か否かで議論が紛糾している八ツ場ダム問題ですが、そのダムによって沈む予定である温泉街としていま注目を浴びているのが川原湯温泉です。源頼朝による開湯伝説が残る当地は800年近い歴史を有し、肌に優しい泉質であるため、強酸性である近所の草津温泉の上がり湯と言われてきました。ダム計画が持ち上がった当初は当然の如く国に対して反発してきましたが、長年にわたり補償問題等について協議してきた結果、国との蟠りもようやく解けるようになり、最近は逆境を逆手にとって「ダムに沈む温泉」と自ら銘打ってアピールするようになりました。ダム完成後はダム湖畔に新たな温泉街が整備される予定で、その工事が着々と進んでいます。

川原湯には王湯、聖天露天風呂、そして今回紹介する笹湯という3つの共同浴場が存在しています。実は私を湯巡りの世界にいざなってくれたのがこの笹湯です。ここで共同浴場の魅力を知り、以来各地の鄙びた共同浴場を積極的に廻るきっかけとなりました。以来何度も足を運んでここのお湯と湯屋の雰囲気を味わっています。王湯は川原湯を代表する外湯として温泉街の非常にわかりやすい所に位置しており、また混浴の聖天露天風呂も案内板が立てられているので迷うことはないのですが、笹湯は温泉街のメインストリートから細い階段を下りた路地裏のわかりずらい所に建てられており目立った案内も無いため、一般の観光客はまず入ることがないでしょう。上述と重複する点もありますが、なぜ温泉初心者だったかつての私が心を惹かれたのかという点を列挙すると、
・路地裏にひっそり佇んでいること
・木造で昭和のノスタルジーが感じられる建物であること
・無人であること
・脱衣スペースと浴室が一体化していて隔たりが無いこと
・硫黄の香り漂うお湯が源泉掛け流しであること
・造作がシンプルであるということ
・地元の方々の生活感、そして愛着が感じられること
まだ温泉のイロハもわからなかった私は、これが昔ながらの日本の湯屋なんだ、と感動して笹湯の持つ雰囲気の虜になりました。その後各地の温泉を巡っていくうちに同様の鄙びた温泉共同浴場が多く点在していることを知るのですが、東京から日帰り圏内にもかかわらずこうした条件が揃っているというのは、とても貴重なのではないでしょうか。今でも私は温泉巡りで方向性に迷いが生じたときは、初心に帰るためにこの笹湯を訪れることにしています。

建物自体は古いものの、浴室内の各部やタイル貼りの浴槽はどこも綺麗に手入れされており、地元の方の愛情が伝わってきます。天井が高いために湯気が篭りにくい構造になっているのも、入浴者にとってはありがたい点です。
建物こそ昔ながらのものですが、源泉はダム対策として移転する温泉街用に新たに掘られたお湯が用いられており、旧来のお湯に比べて源泉温度が熱くなっているので、加水に関しては「必要に応じて入浴される方におまかせしています」という体制をとっています。ですので入浴前はまず湯加減を確認し、熱いようであれば自分で水道の蛇口をひねってホースで加水する必要があります。無色透明のお湯からは焦げたタマゴの香りと味が感じられ、お湯の中で綿屑のような灰色や白色の湯の華が浮遊しています。

予定通りに工事が進むことによりこの貴重な浴場がダムの底に沈んで消えてしまうのは残念なことですが、一方でダム建設を中断した場合の地域や国としての弊害も考えなければならず、その判断は何とも難しいところであり、一温泉ファンとして動向が非常に気になるところです。笹湯が今後どうなってゆくのかは政治決断に委ねられていると言っても過言ではありません。


綺麗に手入れされたタイル張りの浴槽


脱衣スペースと浴室に隔たりは無く、一体となっています


源泉温度が高く、どのくらい加水するかは利用者に任されています


含硫黄-カルシウム・ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉
(新湯)78.9℃ pH7.3 掘削自噴(量不明) 成分総計1.89g/kg

群馬県吾妻郡長野原町川原湯 地図
川原湯温泉ホームページ

10:00~17:00(平成21年7月に時間を改定) 無休
300円

私の好み:★★★
コメント (1)
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