温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

陽明山温泉 国際大旅館

2014年09月17日 | 台湾
 
バスターミナルなどがある陽明山エリア中心部の仰徳大道沿いに位置する、石造りの重厚感ある建物が印象的な、創業62年の老舗旅館「国際大旅館」。
ここの浴場では濃厚な硫黄の温泉に浸かれるため、日本のガイドブックでも屡々紹介されています。しかしながら、訪問した人によって評価が極端に分かれており、低評価の内容があまりに散々であるため、チキン野郎な私はいままで訪問することに尻込みしていたのですが、前回取り上げた冷水坑温泉を出た後、市街でレンタカーを返却するまで時間に余裕がありましたし、冷水坑から菁山路を南下すれば陽明山中心部まですぐ行けちゃいますので、勇気を出して訪れてみることにしました。



古びて重い雰囲気の外観とは裏腹に、暖色系の照明が室内から照らされているガラスのエントランスは意外にも入りやすい雰囲気です。自動扉の右側には「インバウンド」と記されたプレートがあるように、かつては要人や外国人など利用できる者は一部に限られていたんだそうですが、今では境遇や国籍など問わず誰でも自由に利用できます。フロントの前には小さなステップがあるのですが、かつてはそこが下足場で、靴を脱いで館内へ上がっていたんだそうです(今は下足のままで入館します)。


 
フロントにて入浴をお願いし、100元支払って浴室へ向かいます。受付の脇には台湾の温泉観光協会が正真正銘の天然温泉であると認めた施設に対して交付する「天然温泉」のプレートが掲示されていました。プレートには温泉に関するデータも記されており、その内容はこのページの下部にて抄出致しますが、記載されていないことを補足しますと、こちらに引かれているお湯は、ミルクのような乳白色を呈する池で有名な中山楼付近の源泉から引いているんだそうです。


 
フロントから案内表示に従って左側へ伸びる廊下を歩いた突き当りに男女別の浴室入口があり、そこで下足して貴重品をロッカーへ預けます。浴室は一応「大衆浴池」と銘打たれているのですが、その言葉に反して入口はやけに狭く、はじめて目にした時は、お風呂ではなくトイレの入口ではないかと勘違いしてしまいました。壁には中国語・英語・日本語で入浴方法やマナーに関する注意書きが掲示されていると共に、浴槽の温度を示すデジタル温度計が設置されていました。これによれば男湯は39.1℃とのことですが、この数値がかなりデタラメであることは、入浴前の私はまだ知る由もありません。

ここから先の画像はありません。というのも、週末の夕方だからか、浴室は芋洗い状態だったのです。ただ混雑しているだけならまだしも、まず浴室入口の戸を開けてビックリ。古くて狭い室内に、裸体の男たちが犇めき合っており、しかも洗面台の前や壁際で並ぶようにして静かに直立しているではありませんか。何だこの極めて異様な光景は! 今更引き返すわけにもいかないので、臍を固めて脱衣ゾーンへと向かったのですが、そこでもやはり全身温泉と汗でビショビショになった男たちが突っ立っていました。室内には小さなベンチがあるのですが、腰掛けられる人数が限られているため、座れない人たちが壁際などで立っていたのです。しかもみなさんグッタリしているご様子。そんな男たちに囲まれながら私も脱衣するのですが、更衣室に用意された棚の数が少なく、訪問時には全て埋まっていましたので、仕方なく棚の上に衣類や荷物を置きました。棚の前にはスノコが敷かれていたのですが、朽ちて部分的に踏み抜かれており、それに気付かず割れた場所を踏んでしまった私は思わず「痛ぇ」と声を出してしまいました。

建物の外観と同様に、浴室内も安山岩の切り出し石材が積み上げられており、石ならではの重厚感、そして古い造りゆえの天井の低さなど、他の浴場ではあまりお目にかかれない独特の雰囲気が醸しだされています。そしてこの浴室の壁際でも隙間なく男たちが並んでグッタリしていました。室内には7~8人サイズの長方形の浴槽がひとつと、浴槽とほぼ同じ面積の床があるばかりで、入口周りや脱衣スペースと同様にかなり狭く、シャワーなどはありません。その代わり、水を貯める2つの樽が用意されており、手桶を使ってこの水をかぶることならできます。

浴槽上の壁には「原湯原汁」という字が躍っているのですが、その文字の通り、中山楼源泉のお湯を完全掛け流しで浴槽へ注いでおり、湯船には明るい灰色を帯びた濃厚な白濁湯が張られています。脱衣スペースから見て左端でちょこんと突き出ている塩ビ管からお湯が投入されており、時折濃厚な湯泥をドロっと吐出することもありました。この湯泥の影響もあるのか、濁り方がとても強く、透明度は5センチも無いほどです。また湯中では白く細かな湯華も無数に舞っていました。それにしても「原湯原汁」って凄い表現だと思いませんか。「掛け流し」なんて京言葉のバッタモンみたいな言い回しではなく、「原湯原汁」と漢字4文字で端的に記した方が、断然わかりやすくて訴求力も強いですね。しかも汁って字を使うところがインパクト大であり、火山から絞った果汁、自然の恵みというイメージが強く伝わってきます。お湯からはクレゾールのようにツーンと鼻孔の粘膜を刺激するイオウ臭が強く漂っており、口に含んでみますと苦味や渋味が強く感じられ、頬の内側や喉チンコなどに痺れのような感覚がこびりついて暫く残りました。お湯に含まれる硫化水素が多いため、浴室の窓は常時開放されており、ガラスなどは無く、鉄格子が嵌められていました。

見た目・匂い・味のみならず、実際に湯船に浸かっていてもその濃厚さを実感できます。「原湯原汁」と書かれた壁には、お湯が濃いので入浴時間を3~5分にとどめておいて、という注意書きも付されているのですが、これは決して大げさではなく、本当にこの程度で上がっておかないと湯あたりして体がヘロヘロになってしまいます。しかも湯加減が結構熱く、上述のように入口では39.1℃と表示されていましたが、実際には(私の体感で)44℃近くはあり、温度的にも体への負担が大きいのです。どんな人でも決して長湯できないでしょう。普通の温泉でしたら、湯あたりする際にはボディブローのようにジワジワ効いてくるものですが、ここのお湯はストレートでいきなりノックアウトされちゃうような、凶暴なハードパンチャーなのです。浴室内や脱衣スペース、はたまた入口付近でグッタリしていた裸体の男たちは、皆さんこの原湯原汁パワーでボコボコに打ちのめされた末の姿であり、混雑している上に浴室内が狭すぎて休憩スペースが無いため、仕方なく立ちながら体力の回復を待っているのでした。
なお入浴中はシットリ&スルスルとした浴感なのですが、湯上がりには毛穴の全てにイオウの湯の華が詰まったような感覚があり、いつまでも汗が引かず、濃厚な硫黄泉らしいベタつきも残りました。

寛ぎとは無縁の、格闘と捉えるべき温泉ですが、それでもお湯の濃さは大いに魅力的であり、KOされちゃうのはわかっていながら、何度も湯船に浸かりたくなっちゃうのが不思議なところ。ここのお風呂でクタクタになりながらも、何度も湯船に浸かろうとするお客さんは、間違いなくマゾヒストでしょう。かく言う私もその一人であります。インバウンドの文字を信じてやってきた外国人旅行者は、狭い空間で裸の男達が肩を寄せあっているこの浴室の光景を目にしたら、尻尾を巻いて逃げてしまうかもしれませんが、お湯の質や濃さを求める方でしたら、寧ろ非常にアトラクティブです。人によって評価が極端に分かれてしまうのが、実際に入ってみてよくわかりました。もちろん私は、あの光景に身の危険を覚えましたが、その恐れを上回るほどお湯の魅力に惹かれた者の一人です。

なお客室には畳敷きの和室や洋室があり、大衆浴池と同じ温泉が引かれたお風呂も備え付けられているそうですから、こちらのお湯を誰にも邪魔されずのんびり楽しみたければ、思い切って泊まってしまうか、あるいは比較的空いている平日の日中を狙うと宜しいかと思います。いろんな意味で面白い体験ができたお風呂でした。
あ、そうそう、私みたいに金気の強い温泉(私の場合は冷水坑温泉)の後にこの濃厚な硫黄のお湯に浸かると、全身に付着していた金気とお湯の硫黄が反応してしまい、硫化鉄によって肌が真っ黒く染まってしまいますので、もし温泉をハシゴしようとお考えの方は、その点をご注意くださいませ(そんな人いるのか?)


炭酸泉 60℃ pH6.4 溶存物質884mg/kg 

陽明山バスターミナルより徒歩3分
台北市北投区湖山路一段7号  地図
(02)2861-7100
ホームページ

日帰り入浴時間7:00~21:00(16:00頃に30分間ほど清掃時間あり)
100元
ロッカー(10元リターン式)あり

私の好み:★★★




コメント
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