前回取り上げた庚子坪温泉の野湯ではちょっとワイルドすぎて近づけない、同じ温泉を綺麗な施設で楽しみたいという方。お待たせいたしました。前回記事において私が車を止めた鋭角カーブから100メートル程度車道を進んだ突き当りにある「三金庚子坪温泉会館」では、私が入った野湯のある源泉地帯からお湯を引いており、広大な敷地で露天風呂をのんびり楽しむことができます。こちらは以前は「長春谷温泉会館」として営業していましたが、一旦閉業した後、「三金庚子坪温泉会館」として営業が再開されました。建物は以前のものを活用していますが、玄関まわりなどかなりの部分は改築されたようです。
※「庚子坪」の「庚」は、正しくは火偏に庚で「焿」と表記しますが、日本のパソコンでは文字化けしてしまいますので、この記事においては「庚」の字で代用します。
落ち着いた雰囲気のフロントで入浴をお願いしますと、私が日本人だとわかったスタッフの方は、わざわざ露天風呂ゾーンまで案内してくださいました。庚子坪ではかつて硫黄が採掘されており、その当時の名残なのか、ロビーには大きな硫黄の結晶が展示されていました。
食堂や個室風呂ゾーンを抜けて、屋外の露天風呂へと向かいます。個室風呂ゾーンの階段で2階へ上がると、裸で入れる男女別の内湯があるのですが、それを知ったのは帰国後のこと。この時は露天風呂のみの利用となりました。掲示によればこちらの温泉の水素イオン濃度はpH1.6~2.7とのこと。すなわち酸性泉なわけですが、数値は結構上下するようですね。源泉地における天水の影響が大きいのかな。
露天風呂ゾーンは広い敷地を存分に使っており、とっても開放的です。しかも全体的に綺麗であり、台湾の温泉にありがちな音楽もありません。山の緑と静寂に包まれ、森から吹くそよ風が実にさわやか。時間の流れ方がとてもゆったりしています。なおこの露天風呂では水着着用です。
露天風呂ゾーン入口の左右にはベンチなどが並べられた休憩スペースがあり、ご覧のようにドライヤーやコインロッカーがズラリと並んでいます。そのコインロッカーの奥にあるテントはシャワールームとなっていて、内部で男女別にセパレートされており、ここで水着に着替えるのですが、テント内は換気が悪くて非常に蒸し暑く、着替えの際の僅かな時間でも汗が止まらずに難儀しました。なおシャワーから出てくるお湯は温泉を使っており、酸性の硫黄泉なのですが、そんなお湯をシャワーに使って大丈夫なのでしょうか。水栓類がすぐにぶっ壊れちゃいそうな気がします。
広い敷地には3つの大きな温泉槽が据えられています。
最も手前側に位置している、瓦屋根に覆われた石板張りの長方形浴槽は、トルコ石を彷彿とさせるような美しい青白色濁りのお湯を湛えているのですが、3つある浴槽のうちでは一番熱く、中央の島から湯気を上げてアツアツなお湯が注がれており、湯船で計測したところ42.5℃でpH2.8でした。日本で42~3℃ですと丁度良い湯加減となるはずですが、いくら山のそよ風が吹き抜ける爽快な環境とはいえ、私が訪れたのは夏真っ盛りの7月中旬であり、ジリジリと焼けるような灼熱の陽光が降り注いでいましたので、この湯加減でも私の体感で44~5℃のお湯と同等の熱さが感じられました。こんな熱いお風呂に好んで入る人などいるのかとお思いの方もいらっしゃるかと思いますが、台湾の方は恰も瞑想するかのように、静かにゆっくりと肩まで浸かっており、その表情は実に穏やかでした。日本人以外熱いお風呂には入れない、という固定概念は最早過去のものなりつつあるようです。
メインの露天風呂は広々とした岩風呂で、こちらには屋根が無くてとても開放的。お湯は薄く白濁しており、山の緑とのコントラストがとても綺麗です。浴槽縁には何本か石柱が立っていますが、これは打たせ湯の支柱であり、実際にボタンを押してみますと関節が外れそうになるほど強烈な勢いでお湯が吐出されました。
この浴槽では35℃前後のかなりぬるめの温度設定となっていますが、暑い陽気の中ではこのくらいの温度のほうが寧ろ気持ちよく、湯船に入って熟睡しているおじさんもいたほどです。
湯船に浸かりながら夢の国へお出かけになっているおじさんを横目にしながら、私もメインの岩風呂に入ってみました。山の緑を目にしながら浸かる開放的な露天風呂は、実に爽快です。お湯は上述のように庚子坪温泉の源泉地帯から引いているもので、湯面からイオウ臭を漂わせる白濁湯は酸味があり、酸性泉ならではのツルスベも肌に伝わってとても心地よい浴感です。
屋根なし岩風呂(メイン槽)に隣接して、屋根付きの岩風呂(サブ槽)も設けられており、こちらはメイン槽よりもやや温度が高めです。隣接する2つの岩風呂では、まずこのサブ槽に源泉が投入され、そこからメイン槽へ流下するような流れができているようでした。また両浴槽の縁からは大量にお湯が溢れ出ており、オーバーフローは川をなして排水口へと流下していました。露天の3浴槽はいずれも加水した上で放流式の湯使いとなっているようです。
広々とした露天ゾーンから見えた森の中には「山辺小池」と称される小さな露天風呂群が8つ段々に並んでおり、入浴客はこちらも自由に使えます。広場の大きな浴槽と異なり、こちらは使用の度にお湯を張り替えますので、鮮度良好な状態で入浴できます。ご夫婦や一人客など大人な雰囲気で静かにのんびり湯浴みしたい方は大きな露天で、家族やグループなどで和気藹々と楽しみたい方はこの「山辺小池」を使うと宜しいかと思います。
8つあるうち、一番奥の槽が空いていたので、私もここでお湯を張ることにしました。3~4人サイズの岩風呂です。バルブを開けるとイオウ臭と共に源泉から流れてきたお湯がドバっと大量に吐出されるのですが、お湯だけでは熱すぎちゃうので同時に水のバルブも開けたところ、僅か数分で入浴に適した嵩までお湯が溜まりました。
お湯の配管口にてデータを計測すると、61.3℃およびpH2.8と表示されましたが、この数値を見る限り、広場の長方形の浴槽と同等のpHでありながら湯温は高いようでして、前回取り上げた源泉地帯の数値(49.0℃、pH3.2)と比べると、温度も酸性の度合いもはるかに高いようでした。こちらに引湯する源泉においては天水の混入を極力防いでいるものと思われ、それゆえ高温が維持され、酸性の度合いもさほど薄まることが無いのでしょう。
お湯が良い嵩まで溜まったところで実際に入ってみました。加水の具合が良かったおかげで、とても心地よい湯加減です。大きな露天で開放的な環境を楽しむのも良いですが、木陰の下で静かに湯浴みするのもまた一興ですね。
長方形の浴槽では青白色に強く濁っていたお湯も、吐出されたばかりのこの湯船では弱い貝汁濁り程度に留まっており、お湯のコンディションによって濁り方が異なることがよくわかります。濁り方のみならずお湯から体に伝わる鮮度感も優れており、入浴していると森の方々から小鳥の囀りが聞こえ、五感を存分に楽しませることができました。
帰り際に駐車場から奥の方を見ると、何やら工事が行われていました。更に温泉プールを拡張するのでしょうか。
山の緑に抱かれた静かな環境の下、広々とした露天風呂で掛け流しの白濁湯に入れ、しかも客の好みに応じたスタイルの浴槽が使えるという、老若男女を問わず楽しめる実に素晴らしい施設でした。しかも私が訪れたのは週末だったのですが、大して混雑することもなく、お客さんのマナーも良いため、終始のんびりと落ち着いた空気感に浸れました。おすすめです。
新北市萬里区磺潭里坪頂3号 地図
ホームページ
7:00~翌2:00
300元
ロッカー(有料20元)・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★★