九重九湯の一つである筋湯温泉には4つの共同浴場があり、先日当地で一泊した際にその全てを巡りましたので、実際に入浴した順に1軒ずつ紹介してまいります。まずはじめは、筋湯温泉のランドマーク的存在である「うたせ湯」です。筋湯に到着したのは十分に明るい日中だったのですが、お宿でひと息ついて食事をしている間に日が暮れてしまい、「うたせ湯」を利用できたのは、夜の帳が下りきった午後8時半頃でした。このため外観以外は暗く見難い画像となっております。何卒ご了承の程を。
昔懐かしい赤いポストがよく似合う、濃淡のコントラストをはっきりさせた民芸調テイストな外観は、一見すると伝統的な湯屋建築のように思われますが、ちょっと冷静になって捉えてみますと、近年の九州の温泉地でよく見られる黒川温泉のコンセプトに倣ったタイプのものであり、建物自体は従前のものですが、外観は約10年ほど前に現在の姿にリニューアルされたんだそうです。
お湯が落とされる音が湯屋の周りに轟いており、表を歩いているだけでも打たせ湯の勢いが伝わってきます。
常駐する管理人のいない無人の共同浴場なのですが、無銭入浴を防止すべく、入口には回転式ゲートが設けられており、入口右側にあるコインベンダーで料金を支払うと発行されるメダルをゲートに投入することにより、中に入れる仕組みとなっています。なお当地の旅館を利用している宿泊客は、お宿で何枚でもメダルが貰えますので、無料で入浴が可能です。
回転式ゲートを通過すると男女別の入口に分かれます。フローリングの脱衣室はウナギの寝床のように奥へ細長く、衣類や荷物を収める棚やカゴが無い代わりに、コインロッカーがたくさん設けられています(画像手前側に写っているのは下足棚です)。このロッカー以外に衣類を置く場所は無いので、利用の際には予め100円玉を用意しておくと良いでしょう。全てコインロッカーで統一されていることから、この浴場が観光客向けであることは明白なのですが、壁に掲示されていた「入浴の手順」も、日本語の他、繁体字中国語・ハングル・英語という4ヶ国語で表記されており、単に観光客向けであるのみならず、外国人旅行者の利用も多いことが窺えました。九州は中華系や韓国からのお客さんが多いですから、このような山奥の温泉地でも多言語対応は必須なのでしょう。
共同浴場という名称が似つかわしくないほど広くて立派な室内には、朦々とした湯気が立ち込めており、打たせ湯が床へ叩きつけられる音が木霊していました。夜で暗い上、湯気の煙幕が視界を遮っていたため、入室した刹那は室内の様子がよく把握できなかったのですが、壁からの跳ね返りを含めて全方向から響いてくる打たせ湯の反響は、近いものもあれば遠いものもあったので、聴覚を以て浴室の大きさが想像できたとともに、暗い中で飛沫の大音響が轟くその独特な雰囲気に圧倒されそうになりました。床には鉄平石が敷かれており、室内の隅には申し訳程度の洗い場(水道の単水栓が3基)が設けられています。
左右に広がっている浴室には幾筋もの打たせ湯が瀑布のように落とされていました。筋湯温泉では「日本一の打たせ湯」と称していますが、なるほど、これだけの数が揃ってるところは他に例を見ません。打たせ湯は全て2本一組となっており、いずれも肩幅に合わせられています。野暮な話ですが、実際に何組あるのか数えてみたところ、8組あり、それぞれ2条の湯筋の幅が若干異なるため、なで肩でもいかり肩でも、体格や自分の好みに合うところを見つけると良いでしょう。
このお風呂ではどうしても打たせ湯に関心が向かいがちですが、これらのお湯を受ける浴槽も当然ながら大きく宏壮な造りでして、私の目測で4m×8mといったところ、槽内は床と同じ鉄平石敷きですが、縁には立派な角材が用いられており、筋湯の清らかに澄んだお湯が張られていました。打たせ湯で十分体がほぐれたら、この広い湯船でおもいっきり四肢を伸ばして寛ぐのも一興ですね。
浴室上部には湯気抜きの窓が常時開放されているため、外気が入って来やすく、それゆえ半露天のような雰囲気も帯びているように思われました。
打たせ湯のお湯は無色透明で、わずかに塩味を有しており、室内では噴気帯的なイオウ臭をほんのり漂わせていますが、お湯からはあまり感じられませんでした。滑らかでツルツルスベスベとした浴感がとても気持ち良く、41~2℃くらいという程よい湯加減も相俟って、飽きのこない湯浴みが楽しめました。ついでに申し上げれば、夜遅い時間帯だったので、終始独占できたこともラッキーでした。
うたせ湯
単純温泉 44.0℃ pH7.1 溶存物質0.678g/kg 成分総計0.704g/kg
Na+:171.0mg(86.87mval%),
Cl-:253.0mg(79.47mval%), SO4--:67.7mg(15.70mval%), HCO3-:25.0mg(4.5mval%),
H2iO3:112.0mg, CO2:26.0mg,
大分県玖珠郡九重町湯坪 地図
筋湯温泉観光協会ホームページ
(※湯屋周りに駐車場はありませんが、県道40線沿いに立寄客専用の駐車場が用意されています)
JR久大本線・豊後森駅もしくは豊後中村駅より日田バスの牧ノ戸峠行か九重登山口行で「筋湯」バス停下車
(※大将軍経由のバスは筋湯を通らないので注意)
6:00~21:30 無休
300円(筋湯温泉の宿泊客は無料)
ロッカー(100円有料)あり、他備品類なし
私の好み:★★