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今回の浅虫温泉における湯めぐりでは、公衆浴場「松の湯」を初めて訪れることにしました。浅虫ダム(ほたる湖)方向へ伸びる温泉街の狭い路地の入った奥に位置しており、私の愛車は幅がちょっと広いため、車で行くと面倒くさいことになるのかと予測して、「道の駅」に駐車して歩いて現地へ向かったのですが、意外にも湯屋の前には広い駐車場が確保されており、温泉街の公衆浴場でありながら(※)、車でのアクセスも問題なさそうです。
(※)もはや常識であり、ここで改めて言及するまでもありませんが、古くからある温泉街はえてして建物が稠密しており、道路幅も狭いため、往々にして対向車との行き違いに難渋したり、駐車スペースの確保に困ったりします。
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「椿館」や「柳の湯」といった老舗旅館が面している道にも上画像のような玄関らしきものがあり、はじめはこちらから出入りするのと勘違いしていたのですが、前に立てられたイーゼルには「入口はこの建物の裏です」と書かれており、現在は使われていないようです。後日調べたところによれば、以前はこちらが玄関だったそうですが、約10年ほど前に実施されたリニューアルの際に、駐車場側の平屋の建物が本棟となり、この鄙びた風情の玄関はお役御免となったようです。
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木のぬくもりが伝わる館内に入って、番台のおじさんに湯銭を支払い、大きな暖簾を潜って男湯へと進みます。男湯の左には「家族風呂」の暖簾も掛かっていますが、こちらには2室の家族風呂があるんだとか。
中央に腰掛けが置かれた脱衣室は、左側に2台の洗面台が据え付けられ、右側に棚が括りつけられています。棚は3段構造で、最上段は施錠できる扉が設けられており、旅行者でも安心です。
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浴室は実用的かつコンパクトで。一方に洗い場が、他方に浴槽が配置されており、必要にして十分な造りであります。また2方向に窓が設けられているため、日中でしたら照明要らずの大変明るい室内環境でした。
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洗い場には6基のシャワー付きカランが一列に並んでおり、ハンドルを回したところ、かない熱いお湯が吐出されましたので、各カランには温泉の配管が接続されているのではないかと思われます。この洗い場からちょっと離れた出入口付近にも混合水栓が1基あり、先にはホース接続用のアタッチメントが取り付けられていたので、このカランは浴槽の清掃や加水に用いるものと推測されますが、でも肝心のホースが見当たらなかったので、少なくともこの時点で客は加水はできそうにありません。
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実用的でシンプルな造りの浴室にあって、唯一温泉としての非日常性を演出しているのが、観葉植物や火山性と思しき多孔質の岩石が並べられた湯口まわり。その観葉植物が載っかった御影石の湯口から、熱い温泉が静かに注がれています。投入口の周りには硫酸塩の真っ白い析出がこびりついていますね。加温循環消毒無しの放流式湯使いであり、湯船ではピリッと熱い44℃前後で、御影石の縁から洗い場へ静かに溢れ出ています。ただ、配湯される段階でかなりの高温であるためか、投入量は絞られていました。浴槽の容量はおおよそ4~5人といったところ。ご近所にそびえる大きなタンクから配湯されてくるお湯は、無色透明で芒硝の匂いと味が伝わってくる、いかにも浅虫らしいお湯です。
訪問した時間帯は利用客が増え始める夕方であり、お湯の投入量が絞り気味であったためか、本来澄み切っているはずの湯船のお湯は、若干の濁りを呈していました。お湯がちょっとお疲れモードだったのかな。夕方の時点でこの状況ですから、一日の汗を流しに多くのお客さんがやってくる日没後になると、更に湯疲れが進行してしまうのではないかと、余計な心配を抱いてしまいます(実際のところはどうなのかな)。源泉100%を守ることに対しては心から敬服しますが、不特定多数のお客さんを捌くことも公衆浴場の役割なので、潔く加水して槽内の湯水入れ替えをスピーディーにしちゃうのも現実的な方法かな、なんて200%の大きなお世話をつぶやいたりして…。
浅虫温泉は歴史と規模のわりに公衆浴場が少なく、外来者が朝から晩まで気軽に入浴できる浴場は、この「松の湯」の他に「道の駅ゆ~さ浅虫」の展望浴場「はだか湯」程度しか選択肢が無いわけですが、設備面の充実さや浴室からの眺望を重視するなら展望浴場「はだか湯」、掛け流しのお湯が好みなら「松の湯」と、お風呂に求める方向性によってはっきり好みが二分されそうです。いずれにせよ、貴重な存在であることには間違いありません。
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火照った体を冷ますため、湯上がりに付近をブラブラ散歩。「浅虫温泉事業協同組合」の前には、飲泉場と温泉たまご場が設けられていました。私は今回初めて目にした気がするのですが、これって以前からありましたっけ?(単に私が浅虫に関して無知なだけかも)
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こちらは以前「民宿つるの湯」にも取り上げた際に言及したことのある、組合の大きな貯湯槽と「源泉公園」の足湯。浅虫温泉の多くの施設では、このタンクからお湯の供給を受けており、いわば浅虫の心臓みたいなものですね。
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足湯の右側には飲泉場や温泉たまご場が並んでいます。どの温泉地も規模の縮小や閉鎖などが相次いでいますが、この辺りの光景は以前の訪問時と全く変わっておらず、変化のない景色にホッと安堵。私がここを通りすごた時、足湯に浸かって文庫本を読み耽る方がいらっしゃいました。なるほど、そういう使い方もあるか…。
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温泉たまご場のお湯はグツグツと音を立てて熱く滾っていました。たまごを湯に沈めるためのカゴの他、その場で食べても良いように殻入れが用意されていて、観光者目線の親切な配慮がなされています。傍らにはちゃんとした分析表が掲示されており、これによれば飲泉所や温泉たまご場に用いられているお湯は35号泉と称し、なんと湧出温度は72.3℃もあるんだとか。組合の混合泉は60℃弱ですから、それよりはるかに高温なんですね。説明に寄れば15~20分で半熟、25~30分で固茹でになるそうです。
・「松の湯」
浅虫温泉配湯泉(混合)
単純温泉 56.3℃ pH記載なし 溶存物質0.942g/kg 成分総計0.960g/kg
Na+:168.6mg(54.91mval%), Ca++:115.2mg(43.07mval%),
Cl-:139.5mg(29.80mval%), SO4--:420.8mg(66.41mval%), HCO3-:27.8mg,
H2SiO3:62.6mg, CO2:17.4mg,
(平成14年8月23日)
・「飲泉所・温泉たまご場」
浅虫35号泉
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉 72.3℃ pH記載なし 溶存物質1.251g/kg 成分総計1.251g/kg
Na+:198.2mg(49.60mval%), Ca++:170.4mg(48.90mval%),
Cl-:174.0mg(27.54mval%), Br-:0.5mg, SO4--:548.3mg(64.05mval%), HCO3-:74.5mg(6.84mval%), CO3--:7.2mg,
H2SiO3:68.3mg,
(平成20年7月28日)
青い森鉄道・浅虫温泉駅より徒歩6分(500m)
青森県青森市大字浅虫字内野13 地図
017-752-3628
7:00~21:00 元旦休業
350円
ロッカーあり、ドライヤー有料(30円/3分)、石鹸類は番台で販売(備え付けなし)
家族風呂あり(2室)
私の好み:★★