温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

巣郷温泉 静山荘

2015年05月22日 | 岩手県
 
東北にはいわゆるアブラ臭を強く放つ温泉が各県に点在しており、いずれのお湯もコアな温泉ファンの鼻腔をくすぐっていますが、そんなアブラ臭温泉のひとつ、秋田県との県境に位置する岩手県巣郷温泉へ立ち寄って入浴してまいりました。今回選んだのは露天風呂にも入れる旅館「静山荘」です。所在地としては岩手県ですが、国道を100~200m西へ進めば秋田県横手市になってしまうようなロケーションであり、その地理関係を象徴するかのように、宿の看板には秋田の銘酒「高清水」のロゴが躍っています。


 
こちらでは入浴回数券を発行しているほど日帰り入浴にも積極的。私が訪れたのは夕方の5時頃でしたが、玄関で2人、浴室までの廊下で3人の日帰り入浴客とすれ違いました。風情から察するに、みなさんいずれも常連さんのようですから、お宿としてはガッチリした固定客を掴んでいるわけですね。
帳場で湯銭を支払って、ロビーを左に進み、階段を上がって2階の浴室へと向かいます。ロビーではお婆さん向けの衣類が販売されていました。東北の温泉旅館ではしばしばこのように年配女性向けの衣料販売が見られますが、東北のお年寄りの間では、温泉に行ったらお洋服を買わなきゃという発想が確立されているのでしょうか。かつて農閑期の東北で盛んに行われていた湯治の習慣が、このような形で残っているのかもしれません。


 
2階に上がって、更に廊下を左方向へと進み、右奥に掛かっている暖簾へと向かいます。男女別浴場の入口前にはロッカーが設置されていますから、入浴中の貴重品対策も万全です。脱衣室はこぢんまりしていますが、和の趣きが施されており、さすが旅館だけあってきれいに清掃されていました。ルームエアコンも取り付けられているので、季節を問わず快適に使えそうです。


 

露天風呂に面したガラス窓が明るさと開放感をもたらしているタイル貼り浴室。左右に配置された洗い場には、計5基のシャワー付きカランが取り付けられています。浴槽も壁と同じ色調のタイル貼りですが、縁には黒御影石が用いられ、室内デザインにメリハリを利かせていました。大きさとしては約2.5m×3.5mの5~6人サイズ。黒光りする縁からは常時お湯が溢れ出ていましたが、槽内での吸引も見られますので、放流式と循環を併用しているのかもしれません。


 
浴槽の隅に設けられた湯口からは、適温のお湯がドバドバ吐出されています。加水されているのか、はたまた循環によって温度均衡を図っているかはよくわかりません。この他、壁に直付けされている蛇口からもお湯がチョロチョロと落とされているのですが、これが篦棒に熱い。しかも蛇口の先には成分の析出も見られます。おそらくこのお湯こそ混じりっけのない生の源泉なのではないでしょうか。


 

岩風呂の露天はおおよそ4人サイズで、床や底は鉄平石敷き。竹垣や庭石などが和の雰囲気を演出しています。全体的に屋根掛けされており、目の前には裏山の斜面が迫っているので、眺望や開放感を楽しめるような造りではありませんが、ゆっくりと流れる田舎の空気や周囲の木々の緑を目にしながら湯浴みしていると、のびのびと寛ぐことができました。

露天の左側(山側)に積み上げられている岩の奥には、塩ビ管が潜望鏡のように立ち上がっており、周りの岩の表面は赤茶色に染まっていますので、かつてはこの岩からお湯が落とされていたのでしょうけど、今では使われておらずカラカラに乾いています。現在ではその岩に代わって、浴室側から耐熱塩ビ管が伸びており、槽内にてお湯が投入されていました。どんな感じで吐出されているのかと、配管の口に手を近づけたら、火傷しそうなほど熱いお湯が出ていてびっくり。内湯のチョロチョロ蛇口と同じく、こちらも手の加えられていない100%の温泉なのでしょうね。なお湯尻(手前側)の底にオーバーフロー管の小さな穴があけられていて、そこからしっかり排湯されているので、浴槽上部からの溢れ出しは見られません。槽内で投入と排湯が行われているため、誰も入っていない時の湯面は、まるで鏡面のように静かで全く波立っていませんでした。

こちらに引かれているお湯は巣郷温泉の他宿と同じく3号泉と秀衡の湯の混合泉で、見た目はほぼ無色透明ですが、僅かに翠色を帯びた貝汁濁りを呈しているようにも見えます。湯面からは揮発油のような臭いと磯の香、そっして焦げシブ臭をミックスされたような巣郷温泉らしいアブラが漂っており、内湯室内にはこの匂いが充満していたので、入室した瞬間、私は思わず麻薬探知犬のように鼻をクンクン鳴らして、アブラ臭に酔いしれました。お湯を口に含むと、ほんのり塩味と焦げシブ味の他、ミントのようにスーッとする清涼感を伴う苦味も感じられます。
アブラ臭や鮮度感などといったお湯の質感は、内湯よりも露天の方が断然優っていたので、私はほとんどの時間を露天で過ごしました。露天は間違いなく掛け流しの湯使いでしょう。尤も、内湯だって決して悪いお湯ではなく、消毒臭も特に気にならなかったので(強いアブラ臭で掻き消されているか?)、程よい湯加減でゆったりと湯浴みすることができるかと思います。
さすが巣郷の湯だけあり、湯上がりはパワフルに火照り、汗がなかなか止まりません。しかも服を着た後もしばらくは、体(特に髪)からはアブラ臭が漂い続けました。何度嗅いでもマニア心くすぐる良い匂いです。いつもだったら加齢臭が発生しはじめた自分の髪の臭いなんてちっとも嗅ぎたくありませんが、この時ばかりは、まるでカワイイ女の子の髪を想うかのように、鬢から香るアブラ臭をしきりに嗅いで、巣郷との名残を惜しみました。


巣郷温泉混合泉(3号泉と秀衡の湯)
ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 76.4℃ pH8.6 溶存物質1.616g/kg 成分総計1.616g/kg 
Na+:464.5mg(86.92mval%), Ca++:54.4mg(11.70mval%), NH4+:2.7mg,
F-:10.0mg, Cl-:425.9mg(49.73mval%), Br-:1.1mg, HS-:0.2mg, S2O3--:1.1mg, SO4--:507.5mg(43.77mval%), HCO3-:36.9mg, CO3--:12.1mg,
H2SiO3:75.2mg, HBO2:18.4mg,

JR北上線・黒沢駅より徒歩25分(2.0km)
岩手県和賀郡西和賀町巣郷63地割159-13  地図
0197-82-3120
ホームページ

日帰り入浴時間9:00~21:00
300円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
コメント (4)
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