温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

浅虫温泉 辰巳館

2015年05月02日 | 青森県
 
前回に引き続き、青森県浅虫温泉を取り上げます。国道4号線の現道(バイパス)と旧道(県道269号線)に挟まれた細長い一角には、海岸を臨むようにいくつかの旅館が建ち並んでいますが、その中の一軒である老舗旅館「辰巳館」に立ち寄って、「麻蒸湯札」で入浴させていただくことにしました。貫禄のある木造建築と、塀の向こうから伸びる松が、伝統的な日本旅館の様式美を作り出していました。旧道側に玄関を構えるこの木造建築は本館であり、海側のバイパス沿いには鉄筋コンクリ造で白塗りの新館も並んでいます。
駐車場の看板には「入浴500円」と記されており、湯札のみならず現金での日帰り入浴利用もウェルカムなんだとか。


 
帳場を左に折れ、地元出身の彫刻家である鈴木正治氏の作品が並ぶ廊下を歩いて、その突き当たりにある浴室へと向かいます。


 
多くのお客さんを捌くに充分な広さを有する脱衣室は、アメニティ類の備え付けこそ無いものの、清掃がよく行き届いていて清潔感があるので、私は快適に利用できました。出入口付近にはゴツい耐火金庫が3台積まれているのですが、鍵にリストバンドが括りつけられているところから察するに、貴重品はこちらに保管するのでしょう。通帳とか印鑑を収めるならシックリきますが、まさか旅先でこの手の金庫のお世話になるとは、思っても見ませんでした。


 
浴室出入口の戸を開けた瞬間、浴室を漂う芒硝の匂いがプンと香ってきました。天井の低い浴室からは建物の古さが滲み出ていますが、窓から降り注ぐ陽光により、室内は年季を打ち消さんばかりの明るさに満ちています。窓の下に岩風呂がひとつ据えられ、左側にはシャワー付きカランが7基一列に並んでいます。


  
 
ゴツゴツとした男性的な岩で囲まれた内湯の浴槽は、最大箇所で幅×奥行き=約3m×約7mといった寸法であり、キャパはおおよそ10人。所々から出っ張っている岩に体をフィットさせると、いい感じに湯浴みできました。奥の石臼みたいな円筒から温泉が噴き上がっており、樋の代わりをなしている石の上を流れてから浴槽へと注がれているのですが、この石の円筒や樋などお湯が流れる箇所には、硫酸塩の真っ白な析出がビッシリこびりついており、その美しい白さと盛り上がりに、思わず目を奪われてしまいました。この円筒の他、脱衣室側のステップ下(槽内)からも浴槽へ温泉が供給されており、2箇所からの投入によって槽内の湯温均衡を図っているようです。源泉温度が熱いためか、投入量はやや絞られており、湯加減は43℃前後でした。


 
内湯と塀に挟まれた裏庭のようなスペースに設けられた露天風呂は、四方をガッチリ囲まれているため景色を楽しむことはできず、しかも決して広くない空間なのに太い柱が何本か立っているため、屋外らしくない閉塞感も否めませんが、松などの庭木類や石灯籠・岩といったストラクチャが、和の温泉情緒を演出しており、あたかも庭園に潤いを添える池のようでもあります。上の方には宿の袖看板が見えますし、前方に植えられている松は道路から見えたものですから、塀のすぐ裏手が県道ということになりますね。実際にこの露天風呂に入っている時には、通りを行き交う車の音や、その先に敷かれている青い森鉄道の走行音が、しばしば耳に入ってきました。内湯同様に露天風呂も岩風呂で、大きさとしては内湯の半分にも満たない4人前後の大きさです。


 
水平方向の視界はあまり芳しくないのですが、湯船に浸かって屋根の方を見上げると、松の枝や庇の垂木が実に美しく、水墨画が描かれた一幅の掛け軸を眺めているような感覚にとらわれました。


 
内湯のようなわかりやすい湯口は無く、柱の礎付近にあけられた底面の穴から、熱いお湯が投入されていました。岩には白い析出が付着しています。この露天浴槽の奥(道路側)には、浅くてぬるい湯溜まりがあり、露天のオーバーフローや内湯の排湯が、その浅い湯溜まりへ流れ落ちる構造になっていました。

こちらの引かれているお湯は組合によって共同管理されている混合泉で、見た目は無色透明、芒硝の匂いや味の他、弱い石膏感も有しています。スルスルとした滑らかな浴感の中に硫酸塩泉的な引っ掛かりが拮抗しているのですが、どちらかと言えばスルスル感の方が優っていたように記憶しています。白い析出がハッキリ現れていたので、硫酸塩泉的な知覚が明瞭に伝わってくるものと期待していたのですが、意外にも味覚面の押しが弱く、浴感もマイルドでした。温度調整のため適宜加水が行われているそうですから、その影響が出ていたのかもしれません。尤も、上述のように内湯では投入量が絞られていましたので、あまり加水に頼ること無く、湯量調整によっても湯加減をコントロールしているものと想像されます。
伝統的な趣きの岩風呂で、放流式の浅虫の湯に浸かれる、渋くて味わい深いお宿のお風呂でした。


浅虫温泉配湯泉(混合)
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉 59.8℃ pH記載なし 溶存物質1.027g/kg 成分総計1.027g/kg
Na+:170.3mg(51.25mval%), Ca++:136.9mg(47.30mval%),
Cl-:145.6mg(28.27mval%), Br-:0.4mg, SO4--:475.0mg(68.02mval%), HCO3-:14.6mg, CO3--:8.1mg,
H2SiO3:68.4mg,
加水あり(温度調整のため)、加温循環消毒なし

青い森鉄道・浅虫温泉駅より徒歩3~4分(350m)
青森県青森市大字浅虫字山下281  地図
017-752-2222
ホームページ

「麻蒸湯札」の利用時間→13:00~15:00/18:30~20:30
現金での日帰り入浴500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★


コメント
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