温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

湯田湯川温泉 鳳鳴館

2020年03月28日 | 岩手県
今回記事から再び半年前のネタを小出しする投稿スタイルに戻ります。今回からしばらくの間は、私の温泉活動における本拠地と表現しても過言ではない東北地方の温泉を取り上げます。私はみちのくを湯めぐりしていると心が落ち着くんです。


昨年(2019年)秋に私が向かったのは、岩手県中西部の湯どころ西和賀町。このエリアには燻し銀と称したくなるような、派手さは無いものの味わい深い素敵な温泉が点在していますが、今回私は訪ねたのは湯田温泉峡(※)の一角をなす湯川温泉のどん詰まりに位置する奥の湯地区です。奥の湯地区では「高繁旅館」が最も規模の大きな宿ですが、その巨躯の裏手に隠れるようにひっそり佇む超渋い宿「鳳鳴館」が今回の主役。訪問時は営業しているかわからないほど薄暗かったのですがが、館内の電気が点いていたので、日帰り入浴利用で訪問してみることにしました。
(※)強すぎる正義感のあまり、鬼の首を取って「温泉『郷』が正しい表記です」とご指摘下さる方がいらっしゃるかと思いますので、先回りして掣肘を加えちゃいますと、峡谷に沿って温泉地が点在している特徴を捉えて、ご当地では湯田温泉「峡」という字を意図的に使っております。


湯川温泉は湯治場としての雰囲気が強い温泉地ですが、とりわけこの「鳳鳴館」はその色合いが濃く、渋い温泉が好きな方にはたまらない佇まいです。
その一方で、玄関やドア(引き戸)などには、クレジットカードやQRコード決済などのキャッシュレス決済が使用可能であることを知らせるPOP類やシール(キャッシュレス対応の新しいもの)が掲出されていました。湯治宿の概念を覆す現代的な対応に驚きつつ、引き戸を開けてお邪魔したのですが、いくら声をかけても返事が無く、おそらくお出かけでお留守の様子。


でも玄関の左側には牛乳パックを加工した手づくりの箱がぶら下がっており、「お湯っこ代300円」と書かれていたので、ここに湯銭を納めて入館させていただきました。キャッシュレス決済と並行して、極めてアナログ且つ性善説に基づく方法を残しているところに、特殊相対性理論も真っ青な時空の歪みを感じます。実に素敵で微笑ましく、私としては胸がキュンキュンしちゃいました。


玄関右側の廊下に浴室が2室並んでおり、手前は女湯、奥が男湯です。
脱衣室は棚とカゴがあるだけの簡素な空間ながら、その棚には誰かさんの私物が無造作に置かれていました。いかにも昔ながらの湯治宿といった風情です。なお室内に扇風機はあるものの、ドライヤーはありません。


お風呂は内湯のみ。タイル張りの浴室は相当年季が入っています。男女仕切りの塀にタイル絵が施されているものの、奇を衒った装飾性は無く、至って実用本位な設えです。


片隅には大きな観葉植物が置かれていました。お風呂の湯気に包まれるおかげか、葉が妙にツヤツヤしており、全体的に大きく育っているようでした。


観葉植物と反対側には洗い場があり、シャワー付き混合水栓が1個だけ設置されています。その傍らにはシャンプー類が置かれていますが、備え付けのアメニティーとして使って良いのか、あるいは常連さんの私物なのか、そのあたりの区分は不明です。



四角い浴槽は3~4人サイズ。温泉のお湯は専用の蛇口からホースを経由して浴槽へ投入されており、浴槽を満たしたお湯は窓下の切り欠けからしっかり溢れ出ていました。湯使いは完全掛け流しかと思われます。
そのお湯は無色透明で、ほんのりと芒硝の匂いや味が感じられます。いわゆる無色透明の硫酸塩泉であり、この手のお湯からは引っかかる浴感が得られる傾向にありますが、こちらのお湯はどちらかと言えばサラサラとした優しい感触と表現すべきお湯であり、しかも湯加減もちょうど良いので、目を瞑っていつまでも入っていたくなります。温泉分析表によれな源泉温度は55℃なので、どうやって湯温を調整しているのでしょうか。それはともかく、
温泉関係の記事を書くライターさんは、静かにじっくりと温泉の味わいを感じ取る際に「お湯と対峙する」という表現を使いますが、こちらのお風呂はまさにその表現がぴったり。余計な設備が無く、ただ温泉の浴槽が1つあるばかりですが、そこに注がれるお湯が上質ゆえに、お湯の良さを正面から感受することができるでしょう。好みが分かれるかもしれませんが、少なくとも秘湯が好きな方なら気に入っていただける一湯です。


温泉とは関係ありませんが、館内に貼ってあったポスターに目を奪われてしまいました。一見すると地方の議会選挙ポスターかと思いきや、「きのこまつり総選挙」と書かれているではありませんか。どうやら毎年行われているキノコ祭りの宣伝らしいのですが、言葉のセンスといい、使われている写真といい、適度にゆるくて、絶妙な感じで田舎臭く、個人的にはちょっと気に入ってしまいました。


奥の湯2号泉
単純温泉 55.6℃ pH7.2 溶存物質0.8762g/kg 成分総計0.8885g/kg
Na+:222.2mg(84.51mval%), Ca++:28.7mg(12.51mval%),
Cl-:242.0mg(57.07mval%), SO4--:181.5mg(31.72mval%), HCO3-:72.8mg(9.96mval%),
H2SiO3:100.0mg, HBO2:14.0mg, CO2:12.3mg,
(平成16年10月15日)
加温加水循環消毒なし

岩手県和賀郡西和賀町湯川52地割71番地
西和賀町観光協会公式サイト内の紹介ページ

日帰り入浴10:00~18:00
300円

私の好み:★★+0.5


コメント (2)
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